「和家具をたのしむ」山本明弘著
東京・下北沢で祖父の代から70年続くアンティーク店の店主が、「時代和家具」の魅力を紹介するビジュアルガイド。
「和家具」とは、昭和初期に増え始めた「洋家具」と区別するためにデパートが使い始めた言葉で、日本人の生活様式に合わせてつくられた家具を指す。職人が注文に応じて作った「一点もの」がほとんどで、一枚板が使われていたり、くぎを使わずに組み立てられていたりと、つくりが確かな上に、日本人の美意識をくすぐるデザインで、現代人をもうならせる。
ちゃぶ台は、20代、30代の若い世代に人気が高いという。年配には懐かしい家具も、テーブルと椅子で育ち、初めて目にする若い世代の目には「かわいい」「シブい」と新鮮に映るらしい。
テーブルからちゃぶ台に変わると、人同士の距離が近くなり、目線が下がることで、空間も広くゆったりと感じられる。
おまけに使わないときには脚をたたんで、ちょっとした隙間や押し入れにしまえる。まさに和家具の真骨頂だ。
一見すると、簡単なつくりに見えるが、実はつくるには手間暇がかかる繊細な家具だそうだ。パーツを同時に組み上げて二度と解体できなくする「羽目殺し」などの高度な技術が用いられ、同店でも修理を手掛けられるのは、熟練のスタッフのみだという。
その他にも、アクセサリーなど小物入れに使えて和家具入門にぴったりの逸品「小抽斗(卓上用書類入れ)」や、それぞれの地方ごとにさまざまなバリエーションがあり、和家具の魅力がすべて詰まっているという各種の箪笥、そして本はもちろん靴や雑貨を並べるなど使い方はアイデア次第だという本棚や本箱まで、それぞれの和家具の特徴や歴史などを写真とともに解説する。
時代劇などでもおなじみの長火鉢の灰と炭を入れる銅製の炉の下につくられた抽斗は、湿気を防ぐための海苔用だと知り、昔の人のアイデアに脱帽。今は、炉の上にガラス板をのせてテーブルとして使う人が多いのだとか。
著者の店から旅立っていった和家具がどのように使われているのか。愛用者たちのお宅を訪ね、マンション暮らしの女性が衣装箪笥として使う旅館や民宿などの玄関にしつらえられていた昭和初期の下駄箱や、60代の夫婦が暮らす家の洋風玄関に置かれた総桐の薬箪笥など、それぞれの暮らしに溶け込んだ和家具たちも取り上げ、その実用例を紹介。
一見すると、数十万もする高価な骨董品のように見えるが、同店で扱う和家具は、数千円から数万円が主流だという。機能と美しさを備え、懐かしさも感じさせてくれる和家具の世界、一歩足を踏み入れただけでハマりそうだ。(洋泉社 1700円+税)