京セラ 稲盛和夫「稲ちゃん、これは絶対にうれないよ」と
京都セラミック(現京セラ)、第二電電(現KDDI)を立ち上げ、日本航空の再建を成し遂げた稲盛和夫氏。「生き方」(サンマーク出版)や「稲盛和夫の実学」(日経BPM)などベストセラーは多い。
京セラ会長を務めていた90年代、稲盛氏は緑色の大きな指輪をしていた。60歳を越えた経営者にしては派手――そんな印象を持つ取引先も少なくなかった。
この指輪は、実は京セラが70年代から手掛けている「再結晶宝石」。「稲盛和夫のガキの自叙伝」(日経BPM)に、「宝石もセラミックスも同じ鉱物結晶の領域であり、私の専門分野だ」とある。
最初に取り組んだのは深いグリーンのエメラルド。失敗の連続だったが、5年かけて商品化にこぎつけた。
試練はここから始まる。同じ京都に本社を構えるワコール創業者の塚本幸一氏は、「稲ちゃん、これは大変なことだ。京セラはさらに発展を遂げること請け合いだ」と感激していたのに、後日、「稲ちゃん、これは絶対に売れないよ」と手のひらを返した。祇園の芸者たちに京セラの宝石を見せたら、「こんな美しいエメラルドが世に出回るのは許せない」「形見でもらったエメラルドの価値が下がるのは許せない」など不評だったというのだ。
クレサンベールというブランドで販売を始めたが、案の定、販売は不振。宝石業界は総スカンだった。それでも「撤退」の2文字は浮かんでこない。いまクレサンベールはブラックオパール、ルビー、アレキサンドライトなど品ぞろえが豊富で、女性たちの人気も高い。