「温泉百名山」飯出敏夫氏
素晴らしい山に登った後に、心から癒やされる温泉で一汗流す。そんな極上の体験をしてみたくはないだろうか。本書は、温泉取材歴40年を誇る著者が、自ら厳選した「名山+温泉」の組み合わせ100座を紹介したもの。候補の山すべてに登り、温泉も体験した上で選定するという、まさに山登りさながらの工程を経て誕生した。
「2016年に白山に登った際にふと日本百名山のうち登り残した山はいくつあるだろうと数えたら、41残っていました。その時すでに69歳。翌年の古希記念の目標に日本百名山完登を掲げ、70歳で達成したのですが、次の目標として温泉のある名山を100選んでみようと思い立ったのが本書執筆のきっかけ。深田久弥氏が選定した日本百名山には温泉のないものも多く、選び直す必要がありました」
温泉百名山選定の基準として、深田久弥氏の日本百名山選定基準である「品格」「歴史」「個性」の3つが温泉にも適用できることに著者は気づいた。「品位がある温泉」とは、自然湧出の温泉で水道水を足したり加熱していない温泉のことで、「歴史がある温泉」とは古くから今まで人々に守られてきたものを、「個性がある温泉」とは泉質や香りや色など五感に訴える性質が際立っている温泉を指す。これらを基準にまず名湯と呼ばれる温泉を選び、そこをベースに足を運べる名山があるかどうかを調べていった。
「1億ふるさと創生金をきっかけに、日本中に地中深く掘ってポンプでくみ上げたような温泉が増えてしまいました。さらにホテルが乱立して、大きな展望浴場を造ってしまうと、湯量が足りなくなり水道水を足したり、加熱したりすることになってきます。そうした場所は、本書には入れていません。小さくても人々が守り続けてきた登山道近くの名湯にこだわって選んでいます」
「品格」「歴史」「個性」の三拍子揃った温泉といえば、奥州三高湯の古湯として名高い蔵王温泉だ。毎分6000リットルが湧く自然湧出泉で療養効果の高い酸性硫黄泉の名湯とあって、古くから湯治場として栄えてきた。近くの蔵王山には車やロープウエーを使うコースも用意されているから初心者にも安心だ。
■白馬三山と鑓温泉はベストコース
さらに、温泉百名山のベストコースと紹介されているのが白馬三山と鑓温泉の組み合わせ。大雪渓、高山植物の花畑を楽しめるほか、標高2100メートルに湧く露天風呂の鑓温泉は、開放感抜群で登山者でしか味わえない充足感を約束してくれるという。ほかにも、知床半島の羅臼岳と北海道最東端の名湯・岩尾別温泉、古事記に登場する神話の山・三瓶山と西日本屈指のにごり湯が楽しめる三瓶温泉なども写真と共に紹介されている。
「今回温泉百名山のために、かつて登った山も再訪しましたが、登るたびに印象が変わります。高山植物や素晴らしい景色を楽しみながら、ゆっくり登ればいつかは山頂につく。年齢的に登山を諦めかけていた人や、いつか山に復帰したいと思っている人も、本書でまた登れるのではと思ってもらえたら。『☆』の数で山の難易度が示してあるため、初心者や体力に自信のない人でも挑戦しやすい場所が見つけられますよ」
(集英社インターナショナル 2420円)
▽飯出敏夫(いいで・としお)1947年生まれ。温泉紀行ライター。旅行書の取材・執筆・編集に関わったのち日本初の温泉専門誌「温泉四季」の創刊に参加。主な著書に「一度は泊まってみたい秘湯の宿70」、アサヒDVDブック「秘湯ロマン」などがある。