「未完の対局」侵略戦争に翻弄される父と子の悲劇
1982年 佐藤純彌監督
佐藤純彌監督が死去した(享年86)。彼が戦後初の日中合作映画として世に送り出したのがこの作品だ。観賞に囲碁の知識は必要ない。
1924年、囲碁の名棋士・松波(三国連太郎)は中国の棋王と呼ばれる况易山(孫道臨)と出会い、彼の息子・阿明(沈冠初)の才能に着目。阿明を日本に連れ帰りたいと申し出る。易山は一度は断ったものの我が子の将来のために承諾。阿明は松波宅で囲碁の修業に励み、松波の娘・巴(紺野美沙子)と愛し合う。だが満州事変が起こり、日中戦争に拡大。南京虐殺の実態を知った阿明は帰国して祖国のために戦おうとするが、松波に反対される。
戦後、易山は阿明を捜すために渡日する。そこで直面したのは阿明が憲兵隊に射殺され、巴が発狂した現実だった。しかも松波のせいで殺されたと聞き、易山は殺意を抱くのだった……。関東軍が領土拡大を狙って無辜(むこ)の市民を殺戮(さつりく)した侵略の暗黒時代。軍の幹部は自分たちに従わない易山に刃(やいば)を向ける。
一方、日本では天聖位のタイトルを獲得した阿明に対して軍部が「日本に帰化して天皇の臣民になれ」と命令。阿明は拒否して命の危険にさらされる。父と子が日本の軍部の迫害を受ける物語だ。松波は南京虐殺を「フェイクニュースだ」とばかりに否定する。日本人が残虐行為をするはずがないと自分に言い聞かせているのだろうが、その彼も国家に裏切られ、身を持ち崩してしまう。