「未完の対局」侵略戦争に翻弄される父と子の悲劇
易山が息子を日本に預けたのは明らかに判断ミスだった。いくら囲碁バカでも山東出兵や張作霖爆殺事件といった事実を見れば、日本軍のきな臭い悪計を見抜けたはずだ。ラストで幼い孫娘の華林(伊藤つかさ)が放ったセリフこそが悲劇の真実である。
巴は阿明殺害のあと憲兵隊から解放されるが、すでに発狂していた。憲兵や特高警察が女性に性的な拷問を加えたことはよく知られている。巴も犠牲者なのだろう。残酷な時代だった。
公開時、劇場で右翼の妨害があったという。もし今、本作がリメークされたら、ネトウヨから在特会、戦闘服を着た稼業の方々までが暴れだすだろう。そういう意味で貴重な一作だ。
(森田健司/日刊ゲンダイ)