性行為のデジタル同意書アプリがリリース「キロク」されないあの一回は…
ずいぶん昔、レースクイーンをしていた頃だ。レース場にその頃親しくしていた友人の一人がやってきた。レースが好きだと聞いたことがなかったので、突然の訪問には驚いたが、仕事を辞め、東京の家を引き払い実家に帰るんだといった。「自分は駄目なんだ」とつぶやき、笑って。
彼は仲間内で場を和ませるため、自分から笑われにいくようなタイプだった。いつも笑っていた。が、その日の笑顔は、泣いている病人のような笑顔だった。
「誰かに相談した?」そうあたしが問うと、彼は力なく首を振った。きっと彼に「あなたは駄目じゃない」とどれだけいっても、今は信じてくれないだろう、そう感じた。独りでそのまま帰せなかった。その夜、あたしは彼と寝た。
彼はその後、誰とも、あたしとも連絡を絶った。それでもあたしは『キロク』されないあの一回は、あって良かったのだと思ってる。自分にとっても、彼にとっても。