「生成AIの広がりで『ウィズフェイク』の時代に突入した」 専門家は選挙への影響を懸念

公開日: 更新日:

佐藤一郎(国立情報学研究所教授)

 2023年はChatGPTが一般に認知されるなど、「生成AI元年」となった。日本でも岸田首相のフェイク動画が拡散されたように、24年は生成AIによってフェイクニュースの生成が容易になることが懸念される。政治や選挙への影響をどう考えるべきか。新著「ChatGPTは世界をどう変えるのか」(中公新書ラクレ)が話題の専門家に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ──24年は選挙イヤー。1月に台湾総統選、3月にロシア大統領選、11月に米国大統領選が行われ、日本でも自民党総裁選に加え、衆院選も行われる可能性があります。台湾総統選をめぐっては昨年から偽動画が出回り、混乱を招いています。生成AIが選挙にもたらす影響を教えてください。

 候補者自ら生成AIを利用してPRすることも考えられますが、やはり懸念されるのはフェイクニュースでしょう。もとよりフェイクニュースはありましたが、生成AIが広く使われるようになったことで、「ウィズフェイク」の時代に突入しました。生成AIを使ってフェイクニュースを量産する傾向が強まるのはもちろん、もう一方で「正しい情報にフェイクであるというレッテルを貼る」という現象も深刻化しそうです。トランプ前大統領が在任中に自らに批判的な報道を「フェイクだ」と決めつけて否定していましたが、これはフェイクニュースをつくるよりも簡単です。報道や指摘が事実であるかどうかを確認する側は時間も手間もかかるのに対し、端的に「フェイクだ」と決めつけるだけで効果があるのですから、こんなに楽なことはありません。

 ──少なくとも支持者は、「トランプがフェイクだと言った」ことを論拠にしますよね。

 人は信じたい情報を信じるものです。偽情報の作成・拡散に対抗するためには、信頼あるメディアによる情報をチェックすることで、目の前にある情報が正しいかどうか、各自が判断することが求められることになるでしょう。読売新聞などが中心となって推しているのが、オリジネーター・プロファイルと呼ばれる技術です。データに「これは信頼できる情報源から発信された情報である」ことを示す認証を技術的に与えるもので、新聞各社と慶応大学が提携し、オリジネーター・プロファイル技術研究組合を結成して社会実装に向けて動いています。しかし、これには2つの問題があります。1つ目は受益者とコスト負担者が一致しないことから、持続性が困難になるのではないかと考えられる点。もう1つは、認証の枠組みに参画していない報道機関や個人が発信した情報は内容のいかんを問わず、「信頼性が低い」「偽情報である」と見なされる可能性がある点です。

 ──その枠組み外のメディアには逆風です。

 日刊ゲンダイさんでなくても、この枠組みは報道の自由や言論の自由の足を引っ張りかねない面もあるので、注意が必要でしょう。オリジネーター・プロファイルに限らず、「偽情報を生成してはいけない」と法的に規制すれば言論や表現の自由の制限につながるのと同様で、枠組みや規制を作った際にもたらされる“副作用”も常に見ておく必要があります。

■情報統制が武器化するリスク

 ──各国の動きはどうですか?

 例えば米国や日本では、政府は「偽情報の拡散によって民主主義を脅かしてはいけない」という方向で対策を練りますが、同じように「偽情報は問題だ」と言って、政府に批判的な報道や言論を取り締まる権威主義的な国家もあります。海外からのフェイクニュース流入を防ぎたいのは各国とも同じですが、その度合いや手法は国の体制によって異なります。中国やロシアなど一部の国がすでに海外サイトへの接続・閲覧を制限しているように、偽情報への対処が海外の情報へのアクセス制限の口実になることもあるのです。

 ──対策が情報統制の武器となるリスクもはらんでいるんですね。

 ChatGPTのような生成AIはGoogleのような検索エンジンに取って代わる可能性があります。検索エンジンは入力されたキーワードに該当するリンク先を複数提示し、利用者はその中から自分の知りたい情報に合うものを選択しています。一方、生成AIの場合は質問に対する回答を文章で生成してくれますから、自分で情報を比較・検討したうえで選ぶ手間が省けるのです。こうなると、情報統制を行いたいと考える為政者にとって生成AIは好都合です。権威主義的な国家が提供する生成AIサービスは、国家にとって不都合な情報を生成しないだけでなく、都合のいい情報だけを利用者に提示するよう、あらかじめ調整した仕様になるでしょう。これで国内の情報環境が政府に都合のいい状態に保たれることが証明されれば、今度は「ミニ権威国家」のような国々が、同様の生成AIのサービスを自国に導入し始めるようになります。そうしたサービスを使う国は自国民に対する情報統制を行えることと引き換えに、サービスを提供する権威主義国の情報環境や価値観を受け入れることになる。結果的に、権威主義国のポジションが高まる可能性もあるのです。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 暮らしのアクセスランキング

  1. 1

    近鉄「しまかぜ」(大阪難波~賢島、京都~賢島、近鉄名古屋~賢島)見て、飲んで、食べて、くつろいで…伊勢志摩まで充実の2時間強

  2. 2

    なぜ女性天皇はダメなのか?旧宮家の養子案そのものが、女性・女系天皇を阻止するために生まれたものだ

  3. 3

    小室圭氏実家はポリスボックスで過去に物議…旧宮家の養子案「皇族になれる資格を持つ人間」が増えたら危惧されること

  4. 4

    関東で震度5弱の地震…ズドンと衝撃→長い揺れナゼ? 気になる首都直下型地震との関連性を専門家に聞いた

  5. 5

    全国で相次ぐクマ情報 宇都宮、仙台、京都、そして東京23区…「まさか」とはいえない出没警戒スポット

  1. 6

    前代未聞! 焼津市役所職員が「兼業」で全国歌手デビュー 地元イベントで歌っていたらレコード会社の目に留まり…

  2. 7

    「スーパー赤ちゃん」「クローンペット」「不老長寿」「心の入れ替え」…命をカネで買う異様な世界にどう立ち向かえばいいのか

  3. 8

    5年に1度の皇室と旧宮家の交流の場「菊栄親睦会」は2014年から開催されず…関係性の変化と養子案の皮肉

  4. 9

    男性シニアの再就職は元公務員でもこんなに難しい 中高年がハマりやすい「リスキリング」の落とし穴

  5. 10

    JR四国「四国まんなか千年ものがたり」(香川県多度津~徳島県大歩危)歴史ある隠れ里を走り抜けるおとなの遊山

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相の沖縄「慰霊の日」追悼スピーチは99%安倍元首相のコピペ…唯一の違いは旧日本軍の神聖化

  2. 2

    歌手・小椋佳さん「たばこの煙が悩みを解いてくれた」…82歳の今も週1でコンサート

  3. 3

    注目の集中審議で高市首相が“錯乱答弁”連発…「中傷動画」「サナエトークン」野党質問を圧殺し被害者ヅラ

  4. 4

    “因縁”のネトフリが中継…大谷翔平が球宴ホームランダービー出場を躊躇する本当の理由

  5. 5

    ドラ1候補の沖縄尚学・末吉良丞“まだ治らない左ヒジ”に日米スカウトやきもき…夏の甲子園沖縄県予選きょう23日開幕

  1. 6

    阪神・佐藤輝明の「内憂外患」…今オフのメジャー挑戦を妨げる2つの事情

  2. 7

    【高校野球怪情報】沖縄尚学・末吉良丞“プロ回避”に現実味…左肘不安で浮上する「東都の名門」の影

  3. 8

    維新の念願「都構想」は絶望的…足元見た高市首相が吉村代表に“諦めろ”と引導渡す

  4. 9

    高市首相の「反社会性パーソナリティー」を精神科医が懸念…海外メディアもG7での“虚勢”をさらし上げ

  5. 10

    『グッド・デイ・サンシャイン』一筋縄ではいかないヘンテコこそが中期のすべて