神保町の名店「兵六」店主に尋ねた 40年以上前の思い出“ビール伝説”の真偽は…
神保町(千代田区)
大手町界隈に多くの氏子を持つ神田明神は、新年の仕事始めから商売繁盛祈願の大企業関係者で大賑わいとなる。
アタシもこの連載が長く続くことを祈念して参拝。その後、明神男坂を下って秋葉原から上野方面をぶらつこうと思ったが、若者たちであふれかえっていたため急きょ、作戦変更。神保町まで行って古本屋をのぞくことにした。
神保町はアタシにとって馴染み深い街。学生時代だけでなく、社会人として20年以上お世話になった。大学、専門学校が多く、本の街として有名だが、駿河台下から明大通りにかけてスポーツ用品店や楽器店が軒を連ねる。最近は若者だけでなく、アタシと同世代のおっさんたちがギターを物色しに来る。客層が幅広くなったというが、若い店員さんたちは昔のヒット曲の話についていけずに戸惑っているらしい。今の30代にジミヘンを熱く語っても通じないわな。
この街にはマスコミ関係者や大学の教員も多く、知的なところも魅力のひとつになっているように思う。「兵六」はそんな大人が通う名店である。
アタシが初めてお邪魔したのは40年以上前、大学生のころ。友人と2人で恐る恐る入ったことを覚えている。初代店主がまだお元気だった。初めて飲んださつま無双のお湯割りは薬臭くて、酒修業を始めたばかりのアタシにはとても飲めたものではなかった。なぜビールではなく、いきなり焼酎だったのかというと、この店で学生がビールを飲むと、店主に説教されるという伝説があったからだ。「親の金で勉強している学生がビールのような高い酒を飲んではいかん!」というわけだ。
当時、そんな伝説の有無を、すでにご高齢になっていた店主に聞くと「今はそんなことはないですよ。どうぞ召し上がってください」と、優しくほほ笑みながらビールを出してもらった。
今回は3代目を相手に昔話をしながら、さつま無双のお湯割り(800円)を飲んでいる。うまいなあ。つまみは昔から定番のつけ揚げ(630円)。鹿児島のさつま揚げのことだ。
居心地のいいコの字形のカウンターに4人掛けのテーブルが2つ。気が付けばほぼ満席に。客のほとんどは昭和世代だろう。大昔は女子は入れなかったらしいが、今では女性たちもビールをあおり、お湯割りをぐいぐいやっている。そんな店の姿を優しい笑顔の初代の写真が眺めている。混んできたので写真に別れを告げた。