慶応優勝で高校野球は変わるのか 甲子園を席巻した快挙の秘密と朝日の狼狽
依然横行する指導者の暴力、体罰、パワハラ
そんな慶応の躍進を見て、戯作者の松崎菊也氏がこう言う。
「従来の高校野球の固定観念を覆す慶応高校の取り組みは素晴らしいと思いますが、『頭髪の規制なし、長時間の猛練習なし、声出しなし、授業の優遇なし、寮なし』というのは、高校の部活動と考えればどれも当たり前のこと。それが、異質に映るところに高校野球の問題がある。選手の自主性を第一とする慶応は、いわゆる野球学校の対極に位置するのでしょうが、夏の甲子園を主催する高野連と朝日新聞は今回の慶応の躍進をどう見ているのか。過度な勝利至上主義に目をつむり、汗と涙の感動物語で不都合な事実を覆い隠してきたのが高野連であり、朝日新聞で、彼らが是とする甲子園はそんな野球学校に支えられてきたわけですから」
朝日新聞は甲子園開幕前の6月、高野連と共同で行った高野連加盟校を対象にしたアンケート調査の結果を公表。朝日新聞デジタルでも【「丸刈り」激減 「時短」進み、スマホ自由度も増】と大きく報じた。
「高校野球改革が進んでいることをアピールしたかったのでしょうが、例えばスマホの使用を『部員の自由』と答えた野球部が前回18年の26.4%から35.9%に増えたことより、14.0%の学校がいまだに使用を禁止しているということに驚いた。64.1%の学校がスマホすら自由に使わせない。そうしたさまざまな抑圧を耐えた先に甲子園というご褒美にありつけるというのがこれまでの構図です。朝日新聞はそれを煽ってきた。炎天下の開会式、閉会式で朝日新聞の社長が延々と挨拶し、高野連の会長が長々と講評をのたまう。それを、球児が直立不動で聞いているというのが象徴的です。それが彼らの考える野球教育なのでしょうけど、学徒出陣じゃあるまいし、見るたびに不快になります。天下の朝日新聞が高校野球を通じて軍国少年をつくり続けている矛盾に気づかなければなりません。慶応の躍進がその契機になればいいと思いますが、変わらないでしょうね」(前出の松崎氏)
決勝の相手となった仙台育英(宮城)は、東北全域のほか東京、神奈川、大阪など全国から選手が集まり、MAX150キロの投手を3人も擁する典型的な野球学校だが、チームを率いる須江航監督(40)は選手との対話を重視する。部員のスマホ使用を制限するどころか積極的に活用し、起用や采配に選手の能力を数値化したデータを取り入れるなど、先進的な指導を行っていることで有名だ。高校野球も変わりつつはある。
しかし、依然として指導者による暴力、体罰、パワハラが横行し、日本学生野球協会が開く審査室会議では毎月のように、指導者が処分されている。今年6月に開かれた同会議では、昨夏の甲子園に出場した聖望学園(埼玉)で、バットで部員の頭をこづいた顧問、部員の胸ぐらをつかんで押し倒した挙げ句に水をぶっかけたコーチなど、指導者4人が一斉に処分された。
慶応が稀有な例としてもてはやされているうちは、高校野球の世界はなにも変わらない。