慶応優勝で高校野球は変わるのか 甲子園を席巻した快挙の秘密と朝日の狼狽
夏の甲子園が異常な盛り上がりを見せた。主役は107年ぶりに全国優勝を果たした慶応(神奈川)だ。
「テレビのワイドショーでも連日、慶応の快進撃を取り上げているのは、他の野球強豪校とは明らかに一線を画しているからです。前監督時代から『エンジョイベースボール』を標榜し、野球推薦もなければ寮もない。髪形も自由。慶応義塾の教育理念『独立自尊』を地で行く野球部が甲子園に新風を吹き込んだことは間違いありません」(民放関係者)
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そんなチームを率いるのは、慶応幼稚舎(小学校)の教員でもある森林貴彦監督(50)だ。同校野球部OBで慶大時代から学生コーチとして後輩たちを指導。NTTに就職後、筑波大大学院で教員免許を取得し、2015年8月から監督を務めている。自身の著書「Thinking Baseball──慶應義塾高校が目指す“野球を通じて引き出す価値”」(東洋館出版社)によれば、「理想はノーサイン野球」とした上で「指導者が全てサインで動かしてしまうと、選手は『サイン通りやればいい』という受け身の姿勢になってしまい、まさに指示待ち族を大量生産するだけに終わってしまいます」と記している。
高校野球雑誌「ホームラン」元編集長の戸田道男氏がこう言う。
「自主性を重視する森林監督は、練習メニューを選手自身に考えさせることが多いそうです。『フラットな関係が築けない』と選手に『森林監督』ではなく『森林さん』と呼ばせている。怒鳴らないために拡声器を使ったり、グラウンドで必要な指示が聞こえるように、アマチュア野球では当たり前の『声出し』も禁止。他校を分析する『データ班』は、強豪校では指導者が行うことが多いのですが、慶応はメンバー外の3年生が行っていて的確と話題。大学生の学生コーチもいる。学業をおろそかにすれば、あの清原和博さんの次男・勝児(2年)でも忖度なしで留年する。一般の生徒と同じクラスのため、勉強についていくのが大変なので、練習も短時間で集中してやっているようです。野球部の寮もありません」
慶応OBが明かす。
「ある日、守備の連係プレーの練習をしていて、選手が『内野手はこう入った方がいいんじゃないですか』と森林監督に提案したら『そうしてみよう』となった。別の選手が『この練習は実戦に合わないんじゃないですか』と言ったら、話し合いの末にその練習が取りやめになった。監督がトップダウンで決めることはあまりありません」
■他校とはひと味違うスカウティング
慶応には野球推薦はないものの、スポーツ活動や文化活動も含めた推薦入試制度がある。野球部に入部したい中学生がこの入試で入れるのは1学年10人弱。中学の内申点は満点45点中38点以上が求められ、作文と面接試験を経て合否が決まる。
「補欠のミカタ レギュラーになれなかった甲子園監督の言葉」(徳間書店)など高校野球関連の著書が多数あるスポーツライターの元永知宏氏は「スカウティングも他校とは一味違います」とこう続ける。
「慶応も中学生をスカウトしますが、学校の成績という高いハードルがあるため、野球も勉強もできる子が集められるという違いがあります。部員によると、慶応側の必殺の口説き文句は『神宮で早慶戦に出られるよ』。普通、強豪校は『甲子園に出られるよ』でしょうけど、慶応の場合は、甲子園も狙うけど、慶応大学に進学してからも、みんなと一緒に野球を続けて神宮で活躍しようと。つまり『7年間、慶応で面倒を見ます』ということ。これは他校にはない唯一無二の口説き文句。野球推薦で大学進学を狙わないといけない強豪校との最も大きな違いではないでしょうか」