五木寛之 流されゆく日々
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連載11304回 耳学問のすすめ <1>
<耳>が大事なのだ。昔からそう思ってきたが、最近ますます<耳が大事>と感じるようになった。 現代のカルチュアは<目>によって支えられてきた。要するに活字である。本を読む、テキストを読むことで人間の…
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連載11303回 ゴミ屋敷住人の独白 <5>
(昨日のつづき) 私はグルメとは縁の遠い野暮天である。御馳走といえば、すぐにすき焼きを連想するぐらいが関の山だ。 それも関西ふうの、お店の人が見事な肉を一枚ずつ焼いてくれるような贅沢なすき焼き…
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連載11302回 ゴミ屋敷住人の独白 <4>
(昨日のつづき) 去年の暮れのことだったと思うが、新聞の投書欄にこんな文章がのっていた。手もとにその記事がないので、うろ憶えのままを書く。あらましはこんな話だ。 <ふだん子供たちには、命の大切さ…
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連載11301回 ゴミ屋敷住人の独白 <3>
(昨日のつづき) <大事を論ぜず、小事を述べる> というのが、小説家としての私の心得であるが、ときどきつい偉そうな事を言ったり書いたりする。 たかが身辺のモノを捨てるか捨てないかぐらいの事で…
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連載11300回 ゴミ屋敷住人の独白 <2>
(昨日のつづき) 生産と消費、この2つの行為によって現代社会は成り立っている。少くともそのように見える。 しかし、ここで大事なことが見落されているような気がしてならない。 生産し、消費する…
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連載11299回 ゴミ屋敷住人の独白 <1>
先週、文芸春秋のインタビューを受けた。そのとき私の若かりし頃の写真を見せられて、髪が真黒なことに思わずため息をついた。そんな時代もあったのだ。 「何年くらい前の写真ですかね」 「さあ。たぶん相当…
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連載11298回 再び『マサカの時代』へ <4>
(昨日のつづき) 今年になって出た自分の本のPRを、もう一度させてもらおうと思う。 中央公論新社から先日、発売された『一期一会の人びと』について。 <一瞬の出会いだからこそ色褪せぬ記憶もある…
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連載11297回 再び『マサカの時代』へ <3>
(昨日のつづき) こんど『雨の日には車をみがいて』という昔の小説を、装を新たにして出すことにした。 これは1988年の6月に角川書店から刊行された本である。今から34年も前の本だ。 これは…
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連載11296回 再び「マサカの時代」へ <2>
(昨日のつづき) 昨日の原稿が活字になったのを読んでびっくりした。時間ギリギリになって、あわてて書いたのだ。再読するいとまもなく、FAXで送ったのだが、きょうの紙面を見ると文章の乱れがひどい。 …
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連載11295回 再び「マサカの時代」へ <1>
2022年の幕明けである。 最近は<松の内>などという言葉も聞かなくなった。昔は1月の半ばまでは松の内といって、お屠蘇気分だったらしい。 それがいつのまにやら半分にちぢまり、7日頃までをいう…
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連載11294回 正月は活字とともに <4>
(昨日のつづき) 朝、カーテンを開けて驚いた。 視界がまっ白である。 一瞬、視力の老化がここまできたかと疑ったが、なんのことはない、雪だった。北国の人には申し訳ないが、ひさしぶりの銀世界に…
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連載11293回 正月は活字とともに <3>
(昨日のつづき) 残念なニュースがひとつ。 <ステイ・ホーム>の掛け声で、家にとじこもって本を読む人が増えた、というのは昨年のニュースだった。 しかし、梅雨時の雨のようにジクジク続くコロナの…
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連載11292回 正月は活字とともに <2>
(昨日のつづき) 全国紙の1面のコラムには毎日、目を通すことができるが、地方紙のそれはなかなかそうはいかない。 しかし、それでも私は以前から各地地方紙のコラムには、かなり広く目を通してきたつも…
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連載11291回 正月は活字とともに <1>
<去年今年貫く棒の如きもの> <降る雪や明治は遠くなりにけり> 新たな年を迎えるたびに、ふと口をついて出てくる有名な句だ。 しかし今年は、そんな感慨もなく、ただ新型コロナの動向が気になるばか…
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連載11290回 世論をうつす鏡として <2>
(昨日のつづき) 今年最後の原稿である。 今日は『家の光』と『クロワッサン』の取材を終えて机に向かう。 このところ連日、2つか3つのインターヴューをこなして日が過ぎた。 『朝日新聞WEB…
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連載11289回 世論をうつす鏡として <1>
また一年が過ぎていく。 コロナに始まり、コロナに終った2021年だった。緊急事態宣言の時期を脱したとはいえ、世界の現状は予断を許さない。新型変種ウイルスの巻き返しを、対岸の火事のように眺めていて…
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連載11288回 間違いだらけの人生 <5>
(昨日のつづき) これまで物心ついて以来、80余年、よくぞ今日まで暮してきたものだ、とつくづく思う。 運命ということもある。偶然もある。たまたまということもある。結果的になんとかなった、という…
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連載11287回 間違いだらけの人生 <4>
(昨日のつづき) 文章や字の間違いは、気がついた時に訂正することができる。 しかし、記憶の中で思い込んでしまっている間違いは、簡単に直すことができないのだ。 幼児期の記憶をたどりながら、新…
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連載11286回 間違いだらけの人生 <3>
(昨日のつづき) これは今までにも何度も書いた話だが、書きたいから繰り返して書く。 以前、大連にいった。その折り、足を延ばして、かつての日露戦争の激戦地の跡をたずねた。日本語の達者な中国人ガイ…
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連載11285回 間違いだらけの人生 <2>
(昨日のつづき) 先日、著者から送られてきた寄贈本を走り読みしていたら、こんな文章に目が止まった。『78歳、気ままなエコロ爺』(グリーン雲野著/幻冬舎刊)。「ボクの新聞批評」という章の一部である。…