書名のない書評「ゲンダイX本」
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【宗教】欧州世界を覆う反ユダヤ主義の起源
旧約聖書がユダヤ教およびキリスト教の正典であることは周知だ。ことにユダヤ教徒にとっては自分たち民族の精神的な基盤とされている。ところが、その聖書の中でもっとも崇敬される指導者が、ユダヤ人ではなくエジ…
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傑作長編 思春期特有の妄想で世界を形成
思春期の娘をもつ親は、どこまで介入すべきか。特に、社交的とはいえず、反抗的でもない、何を考えているのか、測りかねる物静かな娘に対して。 主人公は大学に進学して親元を離れた娘。女子寮に入り、家…
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【ブラックユーモア小説】貧困を食い物にする開発経済学者たちの内幕
経済学者が書いた小説と聞けば、お堅い内容かと思ってしまうが、いい意味で予想を裏切ってくれる。何しろいきなり、ある海洋生物学者の勃起した性器の拡大写真が、あちこちの研究室で回覧されているという場面から…
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【恋愛小説】待つことの残酷さと不条理
世の中には「ひとめ惚れ」を体験した人と、しない人がいる。前者で、あの刹那に覚えがある人は、この作品の表現すべてが狂おしく感じるだろう。後者でも、恋に落ちて感情の制御不能に陥った人は、胸の痛みに悶え苦…
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【難民文学】友人が27歳の愛人を分かち合おうと
現在、ヨーロッパ各国で中東からの難民が大きな問題となっているが、70年ほど前には、ヨーロッパで大量の難民が発生し、その多くがアメリカ合衆国へ渡った。ナチス・ドイツに迫害されたユダヤ人たちである。 …
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【社会派小説】 1970年代の韓国が舞台
国が、あるいは都市が猛スピードで経済成長を遂げるとき、その陰には必ず犠牲者がいる。世界中のどの国でも、いつの時代でも。といっても、そう昔の話ではない。1970年代の韓国の話だ。 童話のような…
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【自然科学】ナポレオンに次いで有名だった“知の巨人”
19世紀前半、ナポレオンに次ぐ有名人と目された男。中南米各地を実地踏査し、文豪のゲーテ、第3代米国大統領ジェファーソンとも親交があり、その男が書いた著作は、スペインの植民地支配から脱するべく独立運動…
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【チェコ文学】 突如、残虐な役柄に選抜される読者
舞台は1950年代、秘密警察が跳梁跋扈し、隣人さえもが不信の時代。チェコの都市ブルノで物語は繰り広げられる。 第1部では、熱い理想を抱くも俗悪な依頼に応えてきた建築家の男と、不倫調査専門の私…
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【現代のアリス物語】不思議の国ならぬゴミ屋敷が舞台
「不思議の国のアリス」のアリスは、ウサギ穴に落ちて不思議の国に迷い込んだが、本書の主人公の少女が、狭い昇降機で降り着いた先は、不思議の国ならぬゴミ屋敷。 19世紀後半のロンドン郊外。廃棄物がう…
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【回想録】ある職業に就いた5人の男の物語
5人の男が自らの半生を語る回想録。彼らの仕事とは鼻と機転が利くこと、雇い主の気まぐれな要望に可能な限り応えること。ただし、できないことはできないと毅然と断れること。侮辱や嘲笑はウイットで返し、時には…
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【アメリカ文学】あの名作の20年後を描く感動長編
1960年代初頭、米国の権威ある賞を受賞し、それを原作として映画も大ヒット、名画の仲間入りを果たした――といえば、いくつかの名前が思い浮かぶだろう。本書はその20年後を描いた作品。 時は19…
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【海外文学】大家族に勇気と希望を与えたあるモノ
そのばあさんには息子が5人いる。ばあさんといっても、まだ57歳。棒のように痩せこけ、歯はむしばまれ、真っ黒い穴があいている。顔には無数のシワが刻まれ皮膚病のように見える。長年の放浪生活で、寒暖の厳し…