【社会派小説】 1970年代の韓国が舞台
国が、あるいは都市が猛スピードで経済成長を遂げるとき、その陰には必ず犠牲者がいる。世界中のどの国でも、いつの時代でも。といっても、そう昔の話ではない。1970年代の韓国の話だ。
童話のようなタイトルとは裏腹に、中身は骨太の社会派小説である。登場するのは、障がいのある父親とその家族だ。一家は貧困と不遇に苦しむが、諦観も漂う。働けど働けど低賃金で、生活は一向に変わらない。生活費はもはや「生存費」である。政府とごく一部の富裕層に搾取され、尊厳を奪われている。子供たちは食物連鎖をこう解釈する。
「植物、動物、肉食動物、大型肉食動物の四段階の生態系。僕らはいちばん下だってことを知ってるよ。僕らにはとって食う相手がいない。だけど僕らの上には、僕らをとって食おうとしているのが三段階もいる」
一方、富裕層の青年も登場。搾取する側の出自に疑問を抱き、労働運動に興味をもち始める。バラバラに見えた物語が、ひとつの答えにつながっていく。差別と格差が激しく、反対意見を述べることができない社会は、いびつで災いが多いという答えに。昔話ではない。今もなお、全世界で起きている現実を描いている。
★先週のX本はコレでした
「フンボルトの冒険」
アンドレア・ウルフ著
NHK出版 2900円+税