【自然科学】ナポレオンに次いで有名だった“知の巨人”
19世紀前半、ナポレオンに次ぐ有名人と目された男。中南米各地を実地踏査し、文豪のゲーテ、第3代米国大統領ジェファーソンとも親交があり、その男が書いた著作は、スペインの植民地支配から脱するべく独立運動を指導したボリバルの背中を押し、ダーウィンの「種の起源」やソローの「森の生活」の成立、ヘッケルの「生態学」の概念に多大な影響を与えた。それほどの人物にもかかわらず、近年その男の名前は忘れ去られていた。
本書はその男の業績をあらためて丁寧にたどり直し、彼が残した豊饒な遺産を現代の我々がいかに受け継ぐべきかを説いた野心作。ことに自然界の生き物はその大小にかかわらず「生命の網」としてすべて有機的につながっているとし、南米植民地で行われていた深刻な環境破壊にいち早く警鐘を鳴らした彼は、現在の環境問題の先駆として重要な位置づけがなされている。
この男の名前だけは知っている人も多いと思うが、科学と自然を総合的に見渡す不世出の知の巨人の足跡をたどっていけば、大いなる知的興奮に駆られること請け合い。
★先週のX本はコレでした
「約束」
イジー・クラトフヴィル著
河出書房新社 2600円+税