【難民文学】友人が27歳の愛人を分かち合おうと
現在、ヨーロッパ各国で中東からの難民が大きな問題となっているが、70年ほど前には、ヨーロッパで大量の難民が発生し、その多くがアメリカ合衆国へ渡った。ナチス・ドイツに迫害されたユダヤ人たちである。
本書は第2次大戦後間もない1952年、ニューヨークに暮らすユダヤ人たちの物語。主人公は、東ヨーロッパに暮らすユダヤ人の日常語であるイディッシュで創作を続ける作家。同朋内では知名度も高く信頼を寄せられている。その彼のもとにやってきたのが、株の相場師をやっている年長の友人。彼は妻とかつての愛人を同じ家に住まわせ、27歳の若い愛人とも付き合っているのだが、友人は主人公とその愛人を分かち合おうと提案してきた。戸惑ったものの、主人公は、いつしかその女にのめり込んでいく。しかし、彼女には暗い過去があり、主人公の心を大きく揺さぶる……。
著者は異国のマイノリティーとして母語で小説を書き続け、大きな文学賞を獲得した。現在、ヨーロッパに暮らす難民たちから新しい文学が生まれることを期待させる一冊。
★先週のX本はコレでした
「こびとが打ち上げた小さなボール」
チョ・セヒ著
河出書房新社 1900円+税