【現代のアリス物語】不思議の国ならぬゴミ屋敷が舞台
「不思議の国のアリス」のアリスは、ウサギ穴に落ちて不思議の国に迷い込んだが、本書の主人公の少女が、狭い昇降機で降り着いた先は、不思議の国ならぬゴミ屋敷。
19世紀後半のロンドン郊外。廃棄物がうずたかく積み上げられた広大な私有地に、巨大な館が立っていた。その館にはゴミで財をなしたある一族が何代にもわたって暮らしていた。少女は、母親が一族の血を引くことから召し使いとして館の地下へ連れてこられたのだ。上階には一族の純血の者たちが住み、彼らは誕生日に与えられた品を自分の分身のように大切にしていた。もう一人の主人公の少年は浴槽の栓が誕生日の品で、さまざまな物の声が聞こえるという特殊な能力の持ち主。少年は伯母が誕生の品であるドアの取っ手をなくしたと聞き、捜しに出掛けるが、途中で少女と出会う。だが、この取っ手の紛失と少年と少女の出会いが、一族に重大な危機を引き起こすことに……。
「不思議の国」の挿絵と同じく、著者の描くイラストが、この物語に独自の色合いを与えている。奇想天外の筋立てといい、まさに現代のアリス物語。
★先週のX本はコレでした
「わたしはこうして執事になった」
ロジーナ・ハリソン著
白水社 2600円+税