小説 仮想通貨
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<43>ヒンズー教の店の隣に小さな両替所
インド洋のアフリカ寄りに浮かぶモーリシャスの首都ポート・ルイスは、白い波が打ち寄せる海に面し、人口は十五万人ほどである。 中心街には二十階建てくらいのビルが建っているが、地上には庶民の町が広…
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<42>仮想通貨バブルの宴のあとのよう
「ところで、あっちのほうも一応書類ができましたけど」 法務部長を務める社内弁護士が、矢作幸作に一束の書類を差し出した。 東京地裁に民事再生手続きを申し立てるための書類だった。水谷の失踪…
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<41>インドのリシケーシュで水谷が死んだ!?
「犯人が作ったダーク・ウェブの取引サイトでは、交換されたネムの量を示すカウンターがあって、それによるともう一億八千万XEMが交換されたようです」 盗難されたネムの四分の一近い量だ。 矢…
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<40>ドアの隙間から3本の指が見える
クリプト・ウィンド社の出鱈目なICOで投資家から百億円以上の金を巻き上げた米国人の男が宿泊している東京・汐留の高級ホテルのスイートルームの鍵をかけていたドアがガチャリと開いた。 続いて、ガチ…
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<39>衆人環視の中でマネーロンダリング
東京・汐留の高級ホテルの三十七階のスイートルームで、太った米国人の男は闇サイトに次々とアクセスし、内容を確認していく。 (これか……!?) ネムをビットコインかライトコインに交換する…
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<38>まるで夜の海に浮かぶ宝石のよう
「えっ!? ……要は、水谷君の記憶でコールドウォレットの秘密鍵を管理するってことか?」 七沢一郎が訊いた。 「そうです。そうすれば、絶対にハッキングされませんし、我が社の売りである取引処…
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<37>盗まれたネムは798億円相当
「盗まれた七百九十八億円相当のネムは、約三十六万人の投資家の資産だということですが、補償については、どのようにお考えでしょうか?」 コインドリーム社の記者会見場で、記者の一人が訊いた。 …
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<36>厳しい言葉に矢作は声も出ない
「マルチシグも使っていなかったわけですか?」 テレビ会議の画面を通じて、ネム財団のメンバーの中国系マレーシア人男性が訊いた。 「マルチシグ」はmulti―signature(複数の署名)…
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<35>北朝鮮の息のかかった会社に発注!?
総額で約七百九十八億円相当のネムが奪われた日の晩、水谷、矢作、法務部長の三人は、テレビ会議システムを使って、シンガポールにあるネム財団と協議をした。 同財団は、ネム・ブロックチェーンの普及活…
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<34>800億円近いネムが5分で奪われた
(こりゃ、ヤバいぞ!) 太った米国人の男は、慌てて特製のバンドで左手に括り付けたノートパソコンを操作し、コインドリーム社の取引サイトを開いた。 ビットコインが大暴落していれば、他の仮想…
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<33>海外の要人暗殺は偵察総局の任務
「仮想通貨を奪ったら、どうやってマネタイズ(現金化)するんだ?」 新大久保の路地にある韓国系焼肉店で、北朝鮮政府に協力している壮年の日本人の男が訊いた。 「一部は韓国に持って行く」 …
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<32>ソフトウエアの外注には驚いた
「仮想通貨取引のシステムの開発を外注するっていうのは、ちょっと考えられないよな」 新大久保の路地にある韓国系焼肉店で、東京のソフトウェア開発のダミー会社、四ツ木ソフトウェア・エンジニアリングの…
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<31>フロアーから拍手と歓声が沸き起こる
仮想通貨相場の異様な過熱で、コインドリーム社の会員数や取扱い高が爆発的に増加し、月間の純利益は五十億円を突破した。まさに笑いが止まらない状態だ。 「ただ、クリプト・ウィンド社のICOの投資家と…
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<30>請求額の10億円は簡単に払える
「ちょっと前に、こんなのが来たぞ」 茅場町にある夕刊紙のオフィスで、社会情報部長を務める先輩記者が、取材から帰って来た山岸良介に一枚の書類を見せた。 七沢証券からの警告文で、代理人弁護…
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<29>もはや詐欺としかいいようがない
二〇一七年十一月―― <七沢証券 仮想通貨詐欺に加担!?> タブロイド判の夕刊紙の一面で、黒地を背景に、派手な赤と黄色の見出しが躍っていた。 山岸良介が書いた記事だった。 …
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<28>こりゃ、完全にペテンじゃないか
「これが、バーチャルオフィスのようですねえ」 茅場町の夕刊紙のオフィスで、英国人のフリージャーナリストから送られて来たメールに添付されたURLをクリックし、帰国子女の女性記者がいった。 …
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<27>オフィスがないですって!?
「ウォーッ!」 「キャーッ! 当てたーい!」 夜の伊豆半島沖を航行する、大型客船の宴会場でパーティーを開いている約百人のコインドリーム社の社員たちから一斉に拍手と歓声が上がった。 約九百三十…
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<26>大型客船からこぼれる若者の歓声
「あのクリプト・ウィンド社のICOって、実は、詐欺じゃないか?」 六本木の仮想通貨バーで、夕刊紙の社会情報部長を務める先輩記者が顔を曇らせた。 「わたし、こないだたまたま新宿の歌舞伎町で…
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<25>中国政府が仮想通貨を追い出し作戦
「ビットコインを持っていることの目的っていうのは唯一つで、買ったときより高く売ること。キャピタル・ゲインを得ることが、唯一の目的なんです」 六本木の仮想通貨バーの天井近くに設置されたスクリーン…
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<24>ビットコインを持つ目的は高く売ること
「七沢証券も、もう手がつけられないって感じだよな」 六本木の仮想通貨バーで、夕刊紙の社会情報部長を務めている先輩記者が、面白くなさそうな表情でいった。 コインドリーム社を子会社に持つ七…