小説 仮想通貨
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<23>「億り人」とは1億円儲けた人
二〇一七年九月―― 東京ではようやく残暑が去り、空気の中に秋の足音を感じる季節になった。 茅場町にある夕刊紙の記者、山岸良介は、仕事が終わったあと、先輩の社会情報部長、ニュース編集部…
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<22>北朝鮮政府がソフトウェア開発を受注
「金融機関や仮想通貨取引所へのハッキングだけじゃなく、闇サイトでの仕事の請負や、ソフトウェア開発など、ありとあらゆる手立てで外貨をかき集めなくてはならん」 平壌にある朝鮮人民軍の諜報・対外工作…
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<21>北朝鮮のサイバー部隊員が逃げ出した
「しかも、『風力発電プロジェクトへの投資は必ずしも計画どおりに進むわけではない。本件への投資は、個々の投資家の自己責任』って、免責条項だけはしっかり入ってるんですよね」 山岸良介がクリプト・ウ…
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<20>金持ちになるコツは早期投資
「今後、二十五兆円と見積もられるヨーロッパの再生可能エネルギーの投資額のうち、何パーセントがデジタル化(仮想通貨化)されると思いますか?」 身振り手振り豊かに話す米国人のゲストスピーカーの話を…
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<19>ICOのプレセールにどよめきが
「わたしどもクリプト・ウィンドの本社は、ロンドンの金融街シティの一角にあります。住所はオールド・ブロード・ストリート六十九番地です」 中国系米国人の男がいうと、背後のスクリーンに、外壁がガラス…
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<18>藍色の海面に大型の風力発電機
「我々は、世界中の風力発電プロジェクトに投資し、投資家に『トークン』で配当を払うICOプロジェクトを立ち上げます。社名はクリプトカレンシー(仮想通貨)とウィンドパワー(風力)から来ています」 …
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<17>画面の中でコインドリームを連呼
二〇一七年五月―― 夕刊紙の記者、山岸良介は、取材を終え、タクシーで茅場町にあるオフィスに戻るところだった。 窓外では、新緑の街路樹が後方に過ぎ去り、初夏らしい明るい日差しが降り注い…
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<16>株式でなくトークンを発行
「金融庁が求める人員やシステムを十三種類もの仮想通貨のために揃えなくてはならないとなると、費用や作業量は馬鹿になりませんから」 コインドリーム社副社長の矢作幸作は、「みなし業者」でいるほうが得…
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<15>匿名性の高いモネロは北朝鮮と関係?
金融庁によるコインドリーム社の登録審査の遅れで、自社の株価が急落した七沢証券の七沢一郎社長は、ただちにコインドリーム副社長の矢作幸作を呼んだ。 「……確かに、うちは仮想通貨の取り扱い種類が多い…
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<14>夕刊紙の記事で株価が暴落
(えっ、うちの株価が暴落してる!?) 兜町の地場証券会社、七沢証券社長の七沢一郎は、パソコン・スクリーンに表示された自社の株価チャートを見て驚いた。 上昇を表す白と下落を表す黒のローソ…
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仮想通貨の取引所って儲かるのか?
「取引を無効にするなー!」 「何時間もログインできなくて、大損したんだぞ!」 渋谷駅近くの宮益坂にある和食店で、取材相手と夕食をとった夕刊紙の記者、山岸良介と、社会情報部長を務める先輩記…
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<12>美味しいチャンスは空振りに
(さて、どうなるか……?) 一ビットコインが九十六万円という異常な価格でコインドリーム社に大量の売り注文を出した太った米国人の男は、してやったりという表情で、手元の菓子袋の中からポテトチップス…
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<11>仮想通貨価格吊り上げは朝4時に
翌年(二〇一七年)春―― 目黒区内の高級マンションに住む、太った米国人の男は、いつものように左腕に括り付けたノートパソコンを右手でカチャカチャ操作し、仮想通貨の売買を行なっていた。 …
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<10>水谷社長の趣味はウサギの飼育
コインドリーム社の社長になった水谷透は、ビットコインが世の中に出て来た頃から取引をしており、何億円も金を持っているという。現在、一ビットコインは六万円程度なので、もし当初の九銭で一万円分買っていれば…
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<9>数年前の1ビットコインはわずか9銭
「あちらはコールセンターです」 先月立ち上げられたばかりの仮想取引所、コインドリーム株式会社のオフィスで、元経営コンサルタントで副社長の矢作幸作がいった。 フロアーの一角に、低いパーテ…
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<8>匿名性の高い仮想通貨が出回っている
門前仲町の「魚三酒場」で、夕刊紙の社会情報部長を務める先輩記者が、怪訝そうな顔になった。 「んー? それって、なんのためにやるんだ?」 ウォレット(ネット上の財布)の中の仮想通貨を何百…
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<7>仮想通貨の根幹はブロックチェーン
中国東北部と北朝鮮の間を流れる鴨緑江のそばにある北朝鮮側の軍事施設を金正恩が視察していた頃、東京・茅場町にある夕刊紙の記者、山岸良介は、社会情報部長を務める五十代の先輩記者と一緒に、門前仲町にある「…
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<6>北朝鮮のサイバー部隊が狙う仮想通貨
「……こちらが、アメリカ、韓国、日本の政府機関や軍へのハッキングを専門にしている班であります。去る二月には、韓国の大企業や政府機関から、F―15戦闘機の翼の設計図や無人偵察機の部品の写真など、四万二千…
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<5>今のISはいくら資金はあっても足りない
ノートパソコンの画面の中に黒い覆面をした男が現れた。目の部分以外をすべて隠した、典型的なIS(イスラム国)スタイルだった。 「よう、この彫刻、どこで手に入れたんだ?」 目黒区の高級マン…
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<4>玉ねぎの皮のように何重にも暗号化
目黒区の高級マンションに住む太った米国人の男が、トイレの便座にすわり、開いたノートパソコンの画面で、半分に切った玉ねぎがゆっくりと回転していた。「ダーク・ウェブ」と呼ばれる闇サイトにアクセスするため…