鷹の系譜
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<101>殺しよりゲリラの阻止のほうが大事だ
〈第六章〉長い逃亡 自宅へ戻る途中でポケベルが鳴る。海老沢は舌打ちして、公衆電話を探した。自宅へ戻ってしまってもよかったが、仕事の話は外で済ませたい。 係長の大森が暗い声で告げる。 …
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<100>主人は昔、学生運動をやっていました
既に日付が変わっていたが、高峰たちは市村が搬送された病院に向かった。事故死――自殺というべきか――なので解剖は行われる予定だが、明日までは病院に遺体を安置しておくという。 家族に連絡が入り、…
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<99>親子で同じような経験をするとは
地元署の庁舎は、駅からさほど遠くなかった。署に到着すると高峰はまず警電を借りて、特捜本部に電話を入れた。さすがにもう係長の井崎は引き上げていたので、ポケベルを鳴らして、所轄に連絡を入れてもらうように…
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<98>俺が追いこんで殺したようなもの
高峰たちは駅に直行し、駅員、さらに救急隊員と一緒に線路に降りて現場に向かった。電車が止まってしまったので、遅い時間にもかかわらず、ホームには人が増え始めていた。 ホームの端から現場までは百メ…
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<97>市村の体が総武線の車両の屋根に
「左だ!」 高峰は指示したが、それより前に村田は跨線橋の階段に足を踏み入れていた。かなり古くなった緑色の跨線橋で、幅は相当広い。渡り切った向こうは北口の繁華街なので、追跡を続けるのは難しくなる…
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<96>彼を殺したのは──私です
無線を用意してくればよかった、と高峰は悔いた。二人で尾行しているとはいえ、向こうがどういう動きをするかは分からない。数時間前に三澤と市村が別れた時は、阿吽の呼吸でそれぞれ尾行を担当できたが、今回はど…
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<95>平成に変わって自粛ムードは過去のものに
長い夜になりそうだと覚悟を決め、高峰はロビーの一角に腰を下ろした。ビジネスマン、さらに観光らしい家族連れなどで賑わっていて、この時間になっても人が多い。観光客か……時代が平成に変わって、自粛ムードが…
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<94>好奇心旺盛なのはいい刑事の証拠
海老沢の野郎……高峰はカッカしながら、彼の背中を見送った。本部へ戻りたいのだが、おそらく海老沢も同じことを考えているだろう。連れ立って歩いて行く気にはなれなかった。 夕飯がまだだから、取り敢…
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<93>Sだろうが、パクれる奴はパクる
本部へ戻り、海老沢は早速係長の大森に報告した。既に午後八時を過ぎているのに、大森はまだ書類と格闘中だった。残業が当たり前なのがこの世界だが、年末年始から続く警戒体制のせいもあり、さすがに全身から疲れ…
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<92>煮るなり焼くなり好きにしてくれ
高峰は何も言わずに部屋を出たが、ホテルのロビーまで降りると、途端に不満を爆発させた。 「何で中途半端にしたんだ? これじゃ、せっかく見つけたのに何にもならないじゃないか」 「三澤はお前に…
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<91>奴が例の計画の中心にいるのか
「神田の西野」イコール、革連協議長の宮永。それに反応したということは、やはり三澤は革連協の謎の最高幹部と何らかのつながりがあるはずだ。この件をさらに厳しく追及すると、三澤を完全に失うことになるかもしれ…
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<90>相手が事件に関係していたら話は別だ
三澤は、市村という名前に反応しなかった。少なくとも、海老沢が見た限りでは。高峰も何も言わない。職業こそ違え、経験を積んだ者同士の無言のぶつかり合い。海老沢は、すぐに話に割って入りたいという気持ちを何…
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<89>市村という人を知ってますね?
三澤は明らかに警戒――怯えている。それを素早く見て取ったのか、高峰はドアを背にしたままで、それ以上部屋の中に進もうとはしなかった。 「お前……」海老沢は大袈裟に溜息をついてみせた。「皆心配して…
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<88>ドアの向こうで誰かが動く気配
上司にも何も言わず、海老沢は本部を出た。桜田門から銀座は近いが、歩いている時間がもったいない。桜田通りを渡るとすぐにタクシーを拾った。 教えてもらったホテルに入ると、高峰はロビーの片隅にある…
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<87>一週間もホテルで何をしているのか
三澤は背の高い男で、尾行途中で見失う心配はなさそうだった。歩くスピードは普通だが、既に酔っ払いの姿が目立つ道路では、普通に毅然と歩いているだけでも、街の光景からは浮いているように見える。 心…
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<86>目の前に行方不明の男の姿が…
市村は銀座駅で降りた。一気に乗客が少なくなり、人の流れに紛れてしまう市村の姿を、高峰は辛うじて捕捉し続けた。 高峰は歩調を速め、村田を追い越した。追い越す際には、軽く肩を叩いて「前後交代」の…
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<85>三澤は事件を起こすような人間じゃない
結局、三澤の妻から聴いた話は、あまり参考にならなかった。 高峰は海老沢に結果を報告し、「市村の監視に入る」と宣言した。もしかしたら三澤が接触してくるかもしれないし、そもそも市村は、捜査一課と…
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<84>主人は学生運動をやっていたんです
三澤という弁護士の妻、晴恵は明らかにおどおどしていた。家にはまだ小さい子どもが二人。大人しくさせておくのも難しい様子で、話が上手く進められない。 それでも高峰は、何とか事情聴取を続けた。 …
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<82>市村が嘘をついていることは間違いない
「で?」料理が並ぶと、高峰は切り出した。海老沢は「調整」を提案していた。互いの情報をさらけ出し、どこへ向かっていくか、目処を立てる。 普通、捜査一課と公安一課は協力し合わない。元々あまり仲がよ…
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<81>酒を呑んでいる余裕もなかった
〈第五章〉探り合い 海老沢と会うのは久しぶりだった。 大学時代の友人で、たまたま警察でも同期になったのだが、所属部署が違うので、会うことは滅多にない。今では、年に一回か二回、酒を酌み交…