鷹の系譜
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<121>縦割り組織でなく警察一家でありたい
「あのな、前から言おうと思ってたんだが」高峰が遠慮がちに切り出した。 「何だ?」 「うん……」高峰が珍しく言い淀む。「俺たちの親父も、刑事だっただろう?」 「ああ」詳しい事情は知らな…
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<120>前田は極左の活動に限界を感じていた
高峰が、湯呑み茶碗越しに海老沢の顔を覗きこんだ。 「どうした」海老沢は急に居心地が悪くなって、体を揺らした。 「いや……すっきりしたと言う割には、顔はすっきりしていない」 「まあ……
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<119>安っぽい水割りが胃に染みる
高峰は、後輩刑事を先に帰した。話を聞かせてもらえないと思ったのか、彼は不満そうだったが、海老沢としても二人きりの方が話しやすい。 高峰が、どこかからウイスキーのボトルを持ってきた。それを見て…
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<118>革連協議長が古本屋の店主だったとは
午後十時。海老沢は世田谷中央署の特捜本部に顔を出した。この時間になると、さすがに捜査一課や所轄の刑事たちもほとんど引き上げてしまっている。まだ前田を調べている刑事はいるはずだが、今は広い会議室に高峰…
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<117>原稿を書いたのは「神田の西野」
ゲリラについて、海老沢はさほど厳しく追及するつもりはなかった。 政治局員を逮捕――これが、革連協に対する明確なメッセージになる。何だかんだ言って、前田は革連協の中枢メンバーなのだ。こういう立…
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<116>10年前のトラブルが今になって殺人事件に?
東京へ移送する前に、地元の所轄で取調室を借り、簡単な取り調べをすることになった。取調室で相対すると、海老沢はいつものようには気合いが入ってこないことを意識した。こんなにあっさり容疑を認めてしまった相…
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<115>潜伏先のアパートを仲間内の合図でノック
海老沢は、後輩の刑事三人と福島にいた。身を切るような風とはこういうことだ……分厚いウールのコートを着ていても、風はコートを切り裂いて肌に突き刺さるようで、これは間違いなく風邪をひくな、と心配になった…
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<114>原稿用紙と伝票の筆跡がよく似ている
全て同じような長さ――原稿用紙二枚でまとめられている。そして最後には全て「神田の西野」と署名があった。 「何だ、これは」 「何がですか?」 「読んでみてくれ」 冊子の方を調…
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<113>手書きの原稿の最後はアジ文書のよう
二人は、苦労して蓋を開けた。長年封印されていたのは間違いない。蓋を壊さないように気をつけながら慎重にやったので、結構時間がかかってしまった。 「何ですか、これ」村田が立ち上がり、箱の中を見下ろ…
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<112>足元に一つだけ異質な木箱が
家宅捜索は、夕方まで続いた。六時過ぎ、一階の店舗部分に担当刑事全員が集められて打ち合わせをしたのだが、この段階まで手がかりは一切ない。住宅部分を捜索している高峰は、遺品の整理をしているような気分にな…
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<111>奴の身柄を取れればゲリラは阻止できる
煙草を二本灰にし、昼休み終了。午後も埃まみれになることを考えるとうんざりしたが、ここで集中力を途切れさせてはいけない。何とか自分に気合いを入れ直したところで、ポケベルが鳴った。思わず舌打ちしてしまう…
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<110>10人以上の刑事が市村書店を家宅捜索
高峰は、マスクを顎まで引き下げて深呼吸した。そうすると埃っぽい空気のせいで、大きく咳きこんでしまう。かと言ってマスクをすると息苦しく、顔が熱い。普段、マスクなどしないから、どうにも自由に動けない感じ…
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<109>公安は完全に上意下達の世界なんだ
海老沢はなおも、前田が実行犯なのかどうか、攻め続けたが、三澤は言質を与えなかった。この辺は、さすが弁護士というべきか。しかも最終的には、「自分は弁護士業務を行っていただけだ」と主張し、市村との共謀関…
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<108>警察の目は案外節穴だからな
「しかし、市村は仙台の大学にいた。革連協の本拠地は、昔からずっと日経大だったじゃないか」 「市村は、かなり熱心な活動家だった。東京へも頻繁に来ていたし、仙台の大学で細胞を作る中心になって活動して…
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<107>新藤は革連協の金を持ち出していた
三澤は目を逸らし、海老沢と視線が合わないようにしていた。海老沢はテーブルの上に身を乗り出し、距離を詰めていく。 「お前とは長い関係だ。考えてみろよ、もう二十年近くになるんだぜ。その間俺は、お前…
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<106>警察のスパイだって自分で認めるのか?
海老沢は、特捜本部の担当管理官に事情を話してから、取調室のドアをノックした。ドア越しに、高峰の「はい」という声が響く。さすがに少し、苛立ちが感じられた。 ドアを開け、高峰に向かってうなずきか…
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<105>新情報は三澤を一気に崩す可能性が
高峰はしばし言葉を切り、三澤の顔を凝視した。三澤が急に居心地悪そうに体を揺らした。高峰はいきなり、かなり大型の爆弾を落としたことになる。三澤はその爆風をもろに浴びた格好だ。 海老沢は腕組みを…
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<104>あなたと会ったあとに自殺しました
海老沢は、取調室の外に陣取った。小さな窓はマジックミラーで、中の様子が完全に窺える。さらに取り調べ用のテーブルには隠しマイクがしこんであり、外からも中の会話を完全に聞ける。 海老沢は、テーブ…
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<103>公安の海老沢に疑わし気な視線
蜂の巣に蠅が入りこんだようなものか、と海老沢は密かに思った。捜査一課が仕切る特捜本部の中に、公安の刑事が一人。呼ばれたから来たのに「部外者の方は出て下さい」と二度も言われた。その都度警察手帳を示し「…
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<102>三澤の調べを俺にやらせたいのか
夜中に連絡があっても、すぐに受話器を取れるように、海老沢はベッドの横に電話を置いている。実際、そういうことは少なからずあった。ゲリラ事件が起きるのは、大抵真夜中なのだ。まるでこちらが寝入った隙を狙う…