合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明
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第二話 立場的にあり得ない(43)
涼子は自分の足元に、目を落とす。 「だから、ふたりにも生きることを望んだし、できることなら、陸くんと同じ運命を辿ろうとしている人を救えるような人になってほしいの。それが、陸くんへの最大の罪滅ぼ…
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第二話 立場的にあり得ない(42)由奈が飯を食いはじめたそうだ
涼子の事務所のソファのうえで、丹波はため息を吐きながら涼子を見た。 「傲慢とは、お前も思い切ったことを言ったな」 丹波の向かいのソファで、涼子は長い髪を手で後ろに掻きあげる。 「…
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第二話 立場的にあり得ない(41)辛さに耐えて前を向きなさい
涼子が再び怜矢に目を向けた。 「怜矢くんは陸くんから好かれていたから、もうちょっと深い関係とも言えるけど、あなたにフラれたら生きていけないっていうくらい強いものだったかしら。もしかしたら、ほか…
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第二話 立場的にあり得ない(40)人は常に悩みを抱えているの
由奈は独り言のようにつぶやいた。 「私は、ずっと楽になりたいって思ってた。そう願っても叶わなくて、辛くて、気が付くと手首を切っていた──」 「はっきりとした、死への願望があったわけではな…
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第二話 立場的にあり得ない(39)私に言わせれば傲慢なの
宮嶋は由奈の身体を支えると、部屋から連れ出そうとした。しかし、由奈は足を止めて抵抗した。歩こうとしない由奈の顔を、宮嶋が不思議そうに見る。 「どうしました? 歩けないならすぐに車椅子を──」 …
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第二話 立場的にあり得ない(38)手首を切るとほっとするの
由奈は、自傷の跡が残っている、自分の手首を見た。 「手首を切ると、これで楽になれるって、そのときはほっとするの。でも、病院のベッドで目が覚めて、横で泣いているお父さんやお母さんを見ると、申し訳…
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第二話 立場的にあり得ない(37)怜矢は陸の気持ちを知っていた
由奈は、ふたり、とは言ったが、明らかに陸に向けて言った言葉だった。陸はなにがあっても自分を好きにはならない。そう思うと、陸を苦しめ、辛い目に遭わせたい、という黒い感情を抱いた。 由奈が陸を見…
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第二話 立場的にあり得ない(36)怜矢が陸に言い放ったひと言が
遠くを見ていた怜矢が、由奈に目を向けた。その眼差しに、由奈は息を飲んだ。怜矢の目は潤みを帯びている。 由奈はたまらず、下を向いた。さきほど怜矢が由奈に向けて言った、それなら俺も生きている資格…
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第二話 立場的にあり得ない(35)知ってたって──いつから
由奈は勢いよく顔をあげて、怜矢を見て叫んだ。 「私が、陸を殺したの! 人殺しの私は、生きている資格なんてない!」 隣で涼子が小さい声で言う。 「それで、自分で自分を追い詰めていた…
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第二話 立場的にあり得ない(34)陸の胸にいるのは怜矢
会話の内容からわかったことは、陸は同性愛者で怜矢に思いを寄せていること、このことは誰にも言わないと決めていること、だった。陸は電話を、怜矢が自分の音楽を好きでいてくれるだけでいい、と告げて切った。 …
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第二話 立場的にあり得ない(33)男性の背後に誰かが
宮嶋は、主治医として面会人が誰なのか知っておきたい、と粘ったが病院長は、由奈を救える唯一の人物だろう、と言って電話を切ったという。 宮嶋に手を貸してもらいながら、由奈は一緒に一階へ降りた。病…
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第二話 立場的にあり得ない(32)心が生きることを拒絶
病室のドアがノックされ、五十嵐由奈は目を覚ました。 ドアが開いて入ってきたのは、看護師だった。手に食事が載ったトレイを持っている。看護師は、ベッドの横にあるラックの台を引き出し、そのうえにト…
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第二話 立場的にあり得ない(31)由奈ちゃんを救って
怜矢は叫んだ。 「知らない、俺はなにも知らない!」 涼子が呆れたように言う。 「あなたは嘘をつくのが下手ね。そんな子供のような言い訳で、私たちをごまかせると思うの? さあ、なにが…
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第二話 立場的にあり得ない(30)自責の念に苛まれ酒に逃げた
自分でもわかるぐらい、怜矢の肩がびくりと跳ねた。涼子のひと言で、回った酔いが一気に冷めていく。怜矢は慌ててしらを切った。 「なんでそんなこと訊くんだよ。あいつ、自殺だろう。それが俺となんの関係…
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第二話 立場的にあり得ない(29)陸の悲しみを知っていたのに
怜矢が陸の死を知ったのは、その翌日だった。陸が自ら命を絶ったことを、陸のファンのSNSで知った。陸と同じバンドのメンバーが、陸の家族から訃報を聞き、そのファンに伝えたのだ。しばらくのあいだ信じられず…
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第二話 立場的にあり得ない(28)こいつ──由奈じゃねえか
涼子が手を叩いてはしゃぐ。 「強い強い」 いまの一杯で、さらに酔いが回る。なんだか涼子に馬鹿にされているような気がして、腹が立ってきた。豊岡陸がなんだ。俺はなにもしていない。恐れること…
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第二話 立場的にあり得ない(27)隣席に妖艶に笑う大人の女
「なにすんだよ!」 怜矢は男の手を振りほどこうとした。しかし、その手はびくともしない。逆にさらに力を強めてくる。 「まあまあ、落ち着いて。大人しくするって約束するなら私が奢ってあげる」 …
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第二話 立場的にあり得ない(26)辛さが増すのに、来てしまう
怜矢はジーパンの尻ポケットにそのまま入れている金を、乱暴にカウンターに置いた。 「ここの店は客が頼んでんのに酒を出さねえのかよ。これで飲める分、黙って出せよ!」 ここで暴れられては困る…
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第二話 立場的にあり得ない(25)信じられない。どうしよう
涼子が訊ねると、貴山は頷いた。 「その、ショウとキョウちゃんって人物はどうなっているの? 同じようにSNSを閉じたりしているの?」 貴山は首を横に振る。 「いまざっと見ただけ、検…
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第二話 立場的にあり得ない(24)由奈が病んだのは陸の自殺か
マイコはユナと、陸を介しての繋がりしかなかったようで、新しいバンドのファンになってからは、ユナに関する投稿はなくなっていた。 涼子は携帯を貴山に返した。 「このユナが、由奈ちゃんなのね…