「世界の不思議な図書館」アレックス・ジョンソン著、北川玲訳

公開日: 更新日:

 デジタル技術によって本や読書の形態が変わりつつあるが、手にした紙書籍のページをめくる喜びは別格である。英国のある調査によると、図書館に行くことは昇給に匹敵するほどの喜びを得られるのだとか。

 本書は、そんな読書の喜びをもたらしてくれる図書館は図書館でも、誰もがイメージする図書館からはちょっと外れた、世界各地のユニークな図書館を紹介してくれる写真集。

 まずは、地下鉄や空港、ホテルなどに併設された、移動中や旅行中に楽しめる図書館が登場。タイのリゾート地にある子供のための図書館兼娯楽総合施設は、「マンタ」を模して竹と木材で造られており、その内部は近未来に迷い込んでしまったかのようだ。

 また、ニューヨーク市の地下鉄の車両内には、書棚を写したように背表紙が並んだポスターが張られており、読みたい本にスマホをかざすだけでさわりの数ページが表示され、その本を所蔵する図書館の地図が送信されてくる仕掛けになっている。中には、タクシー運転手が常連客に本を貸すのがきっかけで始まったというブラジルの図書館タクシーなどもある。

 一方、ラオスのゾウやモンゴルのラクダ、コロンビアのロバなど、人里離れた地域では、今でも動物による伝統的な移動図書館が健在だ。

 そして今、本の世界に革命を起こしつつあるのが、世界各地に出現しているプチ図書館だ。

 そのきっかけは、携帯電話に役目を追われた電話ボックスだ。イギリスのブリティッシュ・テレコムがただ同然の価格で赤い電話ボックスを地域に提供して、住民が活用できる空間にするよう呼びかけたところ、新たな形の地域図書館となったのだ。

 大きなバケツをひっくり返して足をつけたような図書館は、防水加工をした手作りの本棚を街中や個人宅の軒先、バス停、カフェの店内に置き、誰もが本を持ち去る代わりに1冊入れていく「リトル・フリー・ライブラリー・プロジェクト」のひとつ。今ではこのプロジェクトによるプチ図書館が世界に1万2000以上もあるという。

 時代の流れとともに、これまでの重厚な、公共や大学の図書館も変貌しつつある。外装も内部もモダンアートのようなスコットランドのアバディーン大学の図書館や、宮殿のようなバーミンガム図書館など、89の個性的な図書館を紹介。

 本好きな人は、きっと見ているだけで、だいぶ給料が上がったような気分になってくるのではないか。(創元社 3200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…