「アラブの春」では説明できないシリアの混迷

公開日: 更新日:

「サイレント・マイノリティ」下村敦史著

 日本の一般庶民にとってシリア問題は遠い世界の悲劇。欧州ではあれほど深刻な難民問題も、地理的な距離と世界一厳しい入管制度のために縁遠い話だ。本書はそのズレを逆手にとったミステリー。ヒロイン如月玲奈は正義心の強い難民調査官。シリア難民のナディームを担当し、アサド政権の暴虐を聞かされるが、彼の娘ラウアを面談すると、なんと答えは正反対。

「弾圧はなかった、お父さんはウソをついている」と言うのだ。前代未聞の事件に出くわした玲奈は同僚の高杉とともに捜査を開始。玲奈は信頼する先輩の長谷部を頼る。彼は義務感から入管職員を辞め、ジャーナリストとしてシリアにいる。他方、玲奈は人権派をきどる高慢なジャーナリスト山口にもつきまとわれ……。

 人物描写が紋切り型のきらいはあるが、時宜を得た社会派ミステリー。(光文社 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし