【憲法の危機】憲法記念日の当日、ついに「自民党総裁」の口から公式に飛び出した「改憲への道筋」。どうなる憲法?
「憲法が危ない!」鈴木邦男著
1970年代の安保時代に、先鋭的な右翼として頭角を現し、新右翼組織「一水会」代表として広く知られてきた著者。長らく改憲の志をたぎらせてきた著者だが、近年では憲法改正に反対の立場を明らかにして論議を呼んできた。著者の学生時代、「愛国心」は危険なものと見なされ、異端視されたが、いまや普通に、いや誇らしげに「愛国心」が口にされる多数派だ。しかし愛国心は、他人や国家に強制されるものではない。ところが現在の安倍政権の改憲論は多数派の論理で少数派を圧殺しようとしている。だからこそ著者は「今の憲法が保障している自由を手放してはならない」と主張するのだ。
右派の論客で現在の憲法改正論に反対しているのは著者と小林節慶大名誉教授ぐらい。あとはおしなべて沈黙しているが、現在の改憲論は広告代理店がイメージアップのキャンペーンを手掛けている。これは熟議ではなく、単なる情宣活動でしかない。また国民投票は一時の熱気に流されやすく、冷静に考える時間もないまま「ともかく直接民主主義」と突っ走るのは危険と断じる。生粋の右翼として半生を捧げた人ならではの危機感と説得力が行間にあふれる。(祥伝社 780円+税)
「憲法改正とは何だろうか」高見勝利著
ずばり書名が示す通りの内容を憲法学者が講じる。そもそもどんな憲法であれ、永続的な性質はあっても「永久憲法」ではないし、変えなければよいわけでもない。米合衆国憲法では奴隷制に関する規定が曖昧なために、かえって南北戦争が長引いた先例もあるという。
また改正手続きが厳密過ぎると、改憲反対派は改正を阻止し、改憲派はかえって不満を鬱積させて情勢の不安定化を招くことになる。憲法が神域化してしまうと議論は本筋を離れて「護憲」「改憲」の党派対立に陥るというわけだ。
原論から考えることで憲法問題に迫る視角を与えてくれる入門編。(岩波書店 820円+税)
「憲法サバイバル」ちくま新書編集部編
憲法をめぐる4つの対談を収録。といっても堅苦しい話ばかりではない。
巻頭の加藤陽子東大教授と長谷部恭男早大教授の対談は、山田風太郎を愛読した話から始まる。また、上野千鶴子元東大教授とジャーナリスト佐高信の対談では、自民党憲法草案のパロディー本の話で盛り上がる。
実はこれらの対談は、ジュンク堂池袋本店で開かれた憲法本フェアに連動した企画でのものなのだ。いずれも一般向けの公開対談ゆえ、わかりやすさも格段に高いのがミソ。(筑摩書房 780円+税)