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湯浅誠

社会活動家・法政大学教授。1969年、東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。著書に「ヒーローを待っていても世界は変わらない」「『なんとかする』子どもの貧困」など多数。ラジオでレギュラーコメンテーターも務める。

脳は確信犯の詐欺師だ

公開日: 更新日:

「パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学」 池谷裕二著/クレヨンハウス1600円+税

 スリリングな育児本。娘が「ママ」と「パパ」、どちらを先に呼ぶかで一喜一憂するような子煩悩な男性による、ほんわかとした育児日記なのだが、実はこのパパが東大の脳研究者という異色本。「しゃべった!」「歩いた!」という子の成長が、脳科学的に見るとどう言えるのかが解説されるので、まともにしゃべれない子どもの中で何が起こっているのかが、とてもよくわかる。そしてこれが、かなりスリリングだ。

 たとえば「脳の神経細胞の数は『おぎゃー』と誕生した瞬間が一番多くて、あとは減っていきます。そして3歳になるまでに約70%の神経細胞を排除します」。

 生物としての人間は、生まれ落ちた先がどんな世界でも適応できるように、無用なほど過剰な神経細胞を持って生まれてくる。3歳になるまでの一日一日は、この世界で生きていく上で何が必要で何が不要かを取捨選択していく日々だというのだ。廃棄される脳神経数、1日あたり約5000万個。

 積み木やパズルで遊ぶことは脳の何を刺激しているのか。ウソをつくことと過去形でしゃべることの共通点。著者が「いつの日か、娘が『おなかが痛い』と訴えてくる日を楽しみにしています」と言うワケ。乳幼児期の虐待やネグレクトが生涯にわたる影響を及ぼしかねないこと。脳の世界は「ピピピのみの純世界」で、脳は確信犯の詐欺師だ……。

 1カ月ごとに娘の成長を記録しながら、できるようになった一つ一つのことについて、脳科学的な解説が加えられていて、それが個人の成長の軌跡であるとともに、脳の発達史にもなっている。さらにその奥には、動物としての人類の、脳の進化の歴史も垣間見える。子どもの何げない所作がとっても神秘的でドラマチックに見えてくる。スリリングとしか言いようがない。

 育児が「女の仕事」だと思っているような男性がいたら、そんな人にこそお薦めしたい。もちろん育児中でなくても、十分に楽しめる一冊。


【連載】おじさんのための社会凸凹読本

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