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湯浅誠

社会活動家・法政大学教授。1969年、東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。著書に「ヒーローを待っていても世界は変わらない」「『なんとかする』子どもの貧困」など多数。ラジオでレギュラーコメンテーターも務める。

「やる気スイッチ」は「押す」ではなく「入る」もの

公開日: 更新日:

「私たちは子どもに何ができるのか」ポール・タフ著、高山真由美訳 英治出版 1600円+税

 子どもを妻に任せきりで「ワンオペ育児」を強いていると、妻に不満がたまるばかりでなく、子どもの社会性も乏しくなる――そんな調査結果がアメリカにはある。

 おじいちゃんおばあちゃんに近所の人たちが、なんだかんだとかまってくれていた時代とは違う。1人しか近くにいなければ、1人分の価値観しか身につけられない。2人分の価値観に触れられたほうが、多様な価値観に開かれた大人になる。このように、なんでもよく調べるアメリカ人の気質から教えられることは少なくない。この本もそうだった。

 この本によれば、激しい夫婦喧嘩(面前DV)や離婚など、幼少期に逆境を数多く経験した子どもが、がん心臓病にかかる確率は2倍、アルコール依存症になる確率は7倍になるという。幼いころから数多くの「闇」を見聞きすることで、脳神経の「闘争・逃走反応」が発達し、ささいなことで深く傷ついたり、過度に敵対的になったりする。「敷居をまたげば7人の敵」を地で行く人間になるのだ。わが子がそうだという人も、会社で上司として手を焼いている人もいるのではないか。

 そういう人間はいらない、と会社なら不採用にもできるが、社会はそうはいかない。今や日本も7人に1人の子どもは貧困で、私たちの老後は、この子たちがどれだけがんばれるかにかかっている。我が子だけなんとかなれば安泰、というほど甘くない。

 ではどうすればいいのか。著者はそこを粘り強く追求する。見えてきたのは「環境」の大切さだ。「やる気スイッチ」は外から押す(教える)ことはできない。「がんばれ」と言ってがんばれるなら苦労はない。私たちができることは「やる気スイッチ」が入る環境を整えることだ。あれは「押す」ものではなく「入る」ものだから。では、どういった環境だと「入る」のか。生徒の作文に対して「高い期待」を示すフィードバックをするだけでも、そうでない生徒たちに比べて作文の出来がよくなるなど、この本には平易だが実践的で、しかしノウハウの羅列に堕さない事例がたくさん紹介されている。

 さあ、この本で紹介されているさまざまな「やる気スイッチが入る方法」を見て、わが子、子の子(孫)、学校、職場での自分や同僚のふるまいにあてはめてみよう。きっと、あなたに対する妻の見方も変わるだろう。「仕事だけ男」から「育児にもちゃんとした見識のあるステキな中高年男性」へ。他人を変えるには、まず自分からだ。

【連載】おじさんのための社会凸凹読本

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