「英龍伝」佐々木譲著
江川太郎左衛門英龍の名は韮山に反射炉を築いた人物として有名だが、その人となりなどは一般には知られていない。これまでの幕末・維新の歴史観が「薩長史観」に偏していたからだ。
本書は幕吏側からの史観にこだわってきた著者が、英龍の生い立ちから、その精力的な活動をつづった小説だ。
少年時代、英龍は世襲代官江川家の次男として生まれ、跡取りではない身軽さゆえ、さまざまなものに引き付けられていく。算学、本草学、写生そして間宮林蔵からは測量術のいろはを教えられる。
長ずるにあたって、兄を病で亡くした英龍は代官職の跡目を継ぎ、黒船来航を見据えた海防強化に尽力する。後に海防掛に任ぜられ、江戸湾台場築城の指揮を執り破格の大出世を果たす。その不屈の生きざまはまさに傑物の一語。(毎日新聞出版 1800円+税)