ロッキード事件ふたたび
「ロッキード」真山仁著
ロッキード事件発覚から今年で45年。いまふたたび歴史の重いフタが開かれようとしている――。
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テレビドラマ化もされた小説「ハゲタカ」シリーズで人気の作家。しかし「いつかはノンフィクションに挑みたい」と思っていたという。しかも「そのときは、昭和を総括できるテーマを選びたい」と。まさにロッキード事件こそがその志にふさわしい題材だろう。
単なる贈収賄事件ではない。日本の戦後史を貫くアメリカとの深い闇。それも安全保障関連となれば闇はいよいよ深い。著者自身、ふりかえって「掘り起こすごとに深くなる底なし沼のような昭和の大疑獄」だったという。
当時、悪の権化のようにいわれた田中角栄。しかし著者は角栄と、事件当時の全日空社長・若狭得治の2人は「国益のために全力を尽くす」士魂の持ち主だったという。一方、佐藤栄作は非核三原則の功績でノーベル平和賞を受賞したが、著者は佐藤こそがロッキード社との癒着を最初にお膳立てした存在だとみている。アメリカが核を持ち込むことなど実は承知の上で、口先だけ非核三原則を唱えたのが佐藤だったという。
丹念な取材と大胆な仮説で550ページを上回る大冊をあっという間に読ませてしまう。さすが元新聞記者という著者だけのことはあると膝を打った。 (文藝春秋 2475円)
「ロッキード疑獄」春名幹男著
庶民宰相の名に恥じぬ度量と努力の人だった角栄。清濁併せのむその度量が日本の戦後史を動かした。特に日中国交回復は角栄でなければできない仕事だったろう。
しかし、これに困惑したのがアメリカ。当時の米大統領ニクソンは同盟国の日本の頭越しに中国に接近したが、日本が独自の動きをするのは好まず、むしろ警戒した。ニクソンもキッシンジャーも、切れ者でアメリカの言いなりにならない角栄を敬遠し、嫌っていた。その角栄を失脚させただけで本当の巨悪は取り逃がされたのだ。
著者は元共同通信記者のベテランで滞米経験も豊富。 (KADOKAWA 2640円)
「田中角栄 上司の心得」小林吉弥著
高等小学校までしか出てないのにあれほど東大出の官僚たちを自在に使役した角栄。官僚の側も角栄に心酔した。「官邸主導」などといわずとも、本当に魅力と統率力のある人物なら優秀な官僚にむしろ自由に腕を振るわせるのだ。
リーダー論に一家言持つ政治評論家の著者はそんな角栄に理想の上司像を見る。
「心配するな。人生は照る日曇る日。オレに任せろ、泥はかぶってやる」
そう言われて発奮しない部下がいるだろうか。警察庁長官を務めた後藤田正晴は角栄を「部下に花を持たせる達人」だったと評したという。
まさに男の器量を絵に描いたような存在だったのだ。 (幻冬舎 1430円)