アーカイブの時代
「アーカイブの思想」根本彰著
優秀なはずの官僚たちが平然と「記録を破棄した」と言い張る情けないニッポン。いまこそ本格的なアーカイブが必要だ。
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アーカイブとは何か。本書は簡潔に「後から振り返るために知を蓄積して利用できるようにする仕組みないしそうしてできた知の蓄積のこと」という。要はしっかり、きちんと残して、後でいつでも使えるようにするということ。そこに初めて本物の「知」は生まれるのだというわけだ。この伝でいくと近ごろの役人など「痴」もいいところだろう。
著者は東大で長年図書館情報学を担当してきたアーカイブ学の泰斗。本書は西洋思想の根源にまでさかのぼり、ことばとは何か、文字とは何か、それらを駆使した文書とは何かをめぐる哲学的な議論もまじえつつ、デジタル情報時代の今に至るまでアーカイブの思想が太くつながっていることを明らかにする。
全編が「ですます」の講義調のため、難解な話がすっきりとわかりやすい印象になっている。実は本書は、東大を定年退職した直後にコロナ禍の襲来に見舞われた著者がオンラインに切り替わった大学での授業のために、急きょ、毎回の講義内容を文書にして学生に配布。そこに学生たちがコメントや質問を加えたものをもとに、改めて著者が録音で吹き込んだ講義が基になっているのだそうだ。
オンラインも「ですます」文体も初体験という著者にも意外な発見と喜びがあったようだ。
(みすず書房 3960円)
「アーカイブズ論」スー・マケミッシュほか編 安藤正人ほか訳
近年、アーカイブ研究は長足の進歩をとげた分野だが、わけてもオーストラリアは先進的な存在として知られる。もともと英連邦の一員だった豪州が独立する際の記録保管の必要性が、その後も受け継がれ、本書の編者らをふくむ実践活動が卓越していたからだという。
本書はそんな豪州アーカイブ学の成果の訳出。原著から約半分の論文を抜き出して日本版としたらしい。軸になるのは「レコード・キーピング」と「レコード・コンティニュアム」という2つの概念。前者は昔のレコード(記録)管理ではなく、過去の記録と現在の業務は継続しているとの認識を表すもの。後者はそれを複数の分野や施設にまたがって利用するときの動的な状態を指す。
紹介文だけでは難解そうだが、図書館や博物館関係者のほか、一般企業でも社史編纂や経理記録などの部署で役立ちそうだ。
(明石書店 3850円)
「アーカイヴズ」ブリュノ・ガラン著 大沼太兵衛訳
世界中でアーカイブ学が盛んになっているが、内容は国によって違いがあるらしい。英語圏の勢力が強いのは経済でも同様だが、本書はフランスのアーカイブ学入門書。
著者はリヨン出身のアーカイブ専門家(アーキビスト)。特に中世史の古文書などにくわしく、歴史学者らが依拠する歴史的な文書そのものをあつかう上での専門家だ。
大革命を経験したフランスでは、革命以前の歴史と現在とがどうつながっているかに一般の関心も高い。本書ではフランス各地の古文書館が互いにどう連携し、国際的なネットワークにどうつなげるかなどを具体的に論じる。
日本でも郷土博物館などが相互連携すれば、新しい文化資源が生まれる可能性もありそうだ。
(白水社 1320円)