日韓 憂鬱な関係
「文在寅時代の韓国」文京洙著
米トランプ政権退陣の陰で目立たなくなっているが、日韓の深い対立と亀裂は依然として深刻なままだ。
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韓国の主要なメディアとされるのは新聞で、「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」。ところがこの3紙とも英オックスフォード大学のジャーナリズム研究所によると信頼度は最低か下から数えたほうが早いほど、という。
そんな状態であるにもかかわらず、日本ではNHKの報道番組でさえ、韓国情勢を伝えるのに「韓国の主要日刊紙によると」というリポートが多い。つまり日本に伝わる韓国の現代政治状況は信頼のおけないものが優先されているというのだ。
本書はこの状態を憂えた在日問題の専門家による文在寅政権論。「妥協なき民主主義」の道を突き進む文政権のゆくえを危ぶみながら、日韓双方の共存の可能性をさぐろうというものだ。
実は日韓とも、過去の清算や民主主義の前進には、そのたびに強烈なバックラッシュ(反動)が来るのが習いになっている。民主化を希求した金大中・盧武鉉政権のあとの李明博・朴槿恵政権の韓国。90年代の河野談話・村山談話のあとの安倍・菅政権の揺り戻し。大きな目でみればこれらは歴史の一過程なのかもしれない。そうした大局観が求められているということだろう。
(岩波書店 946円)
「『徴用工』問題とは何か」波多野澄雄著
現在の日韓関係の悪化はなんといっても日帝支配時代の「徴用工」と「慰安婦」問題のこじれによるところが大きい。本書は大戦期の日本・東アジア外交史を専門とする筑波大名誉教授による議論の分析。
著者は対立の本質を「歴史の事実関係や法的な正当性」を重視する日本に対して、「その背景にある正義や道義を重んじる韓国の独特の歴史観」がぶつかるという構図そのものにあるという。つまり議論の基盤の次元がまったく異なっているため、妥協の余地が生まれようのない状態になっているわけだ。
特に韓国の大法院判決は、徴用工問題の賠償請求権協定の解釈をめぐって「日本統治の清算という問題を双方が顕在化させない」という「暗黙の合意」があったのを覆したことの影響が大きい。こうなると双方の信頼関係が壊れ、和解や合意はできにくくなるのが道理というものだ。
それでも著者は1998年の日韓共同宣言に立ち返ることで解決の糸口をさぐる可能性があるとする。双方の政権がどうあれ、このままの対立は日韓双方の国民にとって不幸なままだろう。
(中央公論新社 902円)
「韓国問題の新常識」武藤正敏ほか著
安倍政権時代の日本と文在寅政権の韓国。ともに右派と左派の代表格のようなものだから、そりが合うはずがない。しかし安倍政権は退陣。それによって再び動き出したのが日韓関係だ。
本書は計11人の韓国通による現代韓国論。新書判でこの人数だから1人当たりは10ページ前後と短いが、顔ぶれには保守派の言論人が多く、総じて文在寅政権に批判的なのが特徴だろう。たとえば李明博大統領時代に特命全権大使をつとめた武藤正敏氏は文政権が「中朝レッドチーム入り」を鮮明にしたとして「NO文在寅」を求める。在日韓国人社会のメディアである「統一日報」主幹の洪熒氏は現在の韓国には「政権はあるが、政府がない」としてコロナ禍という「武漢肺炎」をみすみす韓国民の間に広めた責任は重いと断罪している。
(PHP研究所 968円)