アメリカ大分断
「分極社会アメリカ」朝日新聞取材班
バイデン政権が発足し、表面的には安定に見えるアメリカ。しかしその底流には……。
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大混乱の米大統領選が終わってこれで半年あまり。
しかし政権発足の議会承認の日にトランプにけしかけられた支持者が議会を襲撃した事件などの余波は大きい。選挙戦中からの長期新聞連載をまとめた本書は、バイデン勝利の光景から始めているが、本文は(昨年)8月の真っ盛りから。当時まだバイデン候補は優勢ではなかった。本書は政治の分断が社会に与えた悪影響をミクロな視点でリポートする。
コロナ禍を過小評価してみずから窮地を招いたトランプ。格差の拡大で支持が急増したサンダース議員。家庭の中でも家族同士の意見が対立し、まるでヘイト社会の縮図のようになった例もある。庶民の社会を特派員たちがていねいに歩き回り、ちまたの声を送り届ける。
他方、折々にフランシス・フクヤマら知識人へのインタビューをはさんだところも効果的。新聞のアメリカ政局報道は、ともすれば日米関係だけを焦点化しがちだが、本書は政治の基盤となる社会の実相をていねいに浮かび上がらせたところに本領がある。
巻末のブラジルの政治学者による「『トランプ』的な政治は消えない」は「ミニ・トランプ」のボルソナロ大統領の国だけにいっそう興味深いものがある。
(朝日新聞出版 1023円)
「分断のアメリカ」日本経済新聞社編
昨年秋の大統領選挙後まで、日経新聞に連載されたルポを単行本化したもの。計30人以上の記者が手分けしてアメリカ社会を上から下まで取材したという。
大学でリベラルに染まった孫娘とソリが合わなくなったと嘆く高齢女性、民主党内で優勢でなかったときも黒人票だけは固かったバイデン候補(当時)。「トランプを倒せるなら誰でも構わない」はまさに本音だったろう。
左派のウォーレン議員が入閣する可能性を懸念してバイデン陣営に多額の献金をする金融界など、裏の裏の顔が次々に報告される。政権発足後だからこそ逆に興味深い内容も多い。
(日本経済新聞出版 1760円)
「絶望大国アメリカ」武隈喜一著
テレビ朝日アメリカの社長としてニューヨークに在住する著者。昨年1月の時点では入国にも支障はなかった。トランプ大統領はコロナを「チャイナ・ウイルス」呼ばわりし、大統領選に向けてひたすら社会を分断してゆく。
首都ワシントン中心部から少し離れた通称「デス・スター」を拠点に、民心の不安をあおるデジタル戦略を練るトランプ陣営。対する民主党側では大富豪ブルームバーグが反トランプ広告を洪水のように送り出す。テレビマンの著者は米マスコミの状況に特に注目し、CNNとFOXなど対立するニュースメディアの様相をリポート。また若者に人気のスナップチャットなどSNSアプリへのトランプ陣営の抑圧などにも触れる。
メディアに映るアメリカの絶望だ。
(水声社 1650円)