中国共産党100年
「中国共産党、その百年」石川禎浩著
毛沢東をしのぐ座を狙い始めた習近平。果たして中国共産党100年の歴史はどう動くのか。
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学生時代、改革開放の機運が高まる中で中国に留学したことが原点という著者。しかし民主化運動の高揚とそれに対する弾圧、そして近年の急速な経済成長の中で、「次第に自分とは縁遠い場所になっていく感覚に襲われるようになった」という。中国現代史のエキスパートとして知られる京大教授の著者にして、グローバル化する中国への違和感はぬぐえなかったということか。しかし本書はくしくもコロナ禍を発生させながら、強力に抑え込むことにも成功した現代中国の様相を念頭に書かれることになった。
党100年の歴史を雄渾にたどる本書は最終段階にいたって現状への評価に苦慮しているところが見られる。政治腐敗の追及で民心の支持を得た習近平だが、その手段は党の特別機関である「中央紀律検査委員会」が超法規的措置によって行う一方、かねて唱えてきた政治改革は近年になるにつれ明らかに消極的になっている。
コロナ禍を徹底的な監視体制で抑止した中国に対しても、諸外国は賛辞より不安と非難の目で見る。それに対して中国は「もうたくさんだ、今後はこちらはこちらのやり方で」と気色ばむが、屈折した反発で世界に君臨しようとするのはむなしいと著者は説く。愛するがゆえの諫言だろう。
(筑摩書房 1980円)
「中国共産党の歴史」高橋伸夫著
中国共産党を「権威主義の権化のように見る態度」が日本には多いと本書は言う。それに対して慶大教授の著者は、四川省の大学から「海外院長」として迎えられた経験などをもとに、大学などにおける党委員会での議論は開放的で柔軟で「民主的」でさえあったという。
中国共産党の歴史を、党の誕生前夜にまでさかのぼってたどった本書は改革開放から江沢民、胡錦濤の時代までを論じ、習近平時代は「終章」として「凍結あるいは反動」の時代だという。胡錦濤時代の特徴だった集団指導体制をやめて個人に権力を集中させる習。彼と側近らの心中には、統治の正統性についての「不安」があるのではないかと指摘している。
(慶應義塾大学出版会 2970円)
「巨大中国を動かす紅い方程式」中川コージ著
冒頭で本書は「世界革命を目論む紅い組織の解剖書」だと宣言する著者。中国で経営学博士号を取得し、「月刊中国ニュース」の編集長にもなったという経歴は生粋のチャイナウオッチャーだが、人気ユーチューバーにもなっている本人は、中国を「好きでも嫌いでもない」「燃え上がるような感情が湧いてこない」という。
本人によれば自分は中国の専門家ではなく、組織戦略の見地から「趣味として『中国共産党』を見てきたもののまとめ」が本書。ゆえに本書も前の2冊とは明らかに違い、説明もユニーク。
たとえば中国でいう「人治」は「法治」に対立するのではなく、近代的で普遍的な「法治」と中国独自の「紀律治」が組み合わさった「統治コスト低減ツール」となって「究極的な人治システム」の中に組み込まれているのだという。「五権分立一統制」など独自概念が次々に出てくるユニークな中国共産党論。
(徳間書店 1870円)