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「米中分断の虚実」宮本雄二ほか著

「新冷戦」といわれるまでに先鋭化した米中対立。相互依存から一気に分離(デカップリング)へと突き進む覇権争いの行方は?



「分離」を意味するデカップリング。米中の場合は両国の経済を切り離すこと。グローバル化の進展で米中の経済相互依存が一気に進んだものの、予想を上回る中国の台頭と露骨な野心が無視できない対立につながり、ついに依存を断ち切ることにしたわけだ。

 しかし、分離といっても分野によりけり。そこで本書は技術覇権、ネットワーク競争、対コロナ、気候変動問題、中国脅威論の是非、米中金融交渉など、具体的な主要課題をとりあげて専門家が解説する。

 例えば、気候変動でバイデン政権は相互協力に前向きだが、協力関係の維持は容易ではない。2023年のCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)がひとつのヤマ場だろう。また人的交流や文化の交わりの「切り離し」はトランプ前政権とコロナ禍の米国で一気に進んだが、中国の台頭におびえるあまり、米国が「ある種のヒステリーに陥っている印象は拭えない」という。かつての「赤狩り」時代のような「アカの脅威」と「黄禍論」が合体したような過剰反応になっているというわけだ。

 問題は米中のはざまにいる日本。アメリカの過剰反応を無視できないものの、引きずられてはかえって国益を損なう。では、という議論も展開されている。

(日本経済新聞出版 3080円)

「内側から見た『AI大国』中国」福田直之著

 著者は昨年まで3年半にわたって中国特派員だった朝日新聞記者。経済畑のエキスパートとして、躍進する中国経済の中でも特にIT分野に注目してきた。例えば、11月11日は中国で「独身の日」とされる。1という数字を棍棒に見立て、棒だけがずらっと並んでいる「チョンガーの日」というわけだが、通販最大手のアリババがこの日を一大セールとしたことで、スマホの買い物が急増。2017年のこの日は午前0時になった途端の1秒間で58・3万件の注文が殺到したという。中国の消費者がいかに巨大な購買力集団となっているかがわかる話だが、これを瞬時にさばくためにもAIは中国にとって死活にかかわる技術なのだ。

 米中のIT覇権争いの陰で、制裁の応酬の板挟みになっているのが日本。嵐にもまれる小舟のような危うさにも著者の目は向けられている。

(朝日新聞出版 935円)

「『ネオ・チャイナリスク』研究」柯隆著

「チャイナリスク」には2つの意味がある。1つは、中国経済が国際的な覇権を握った場合の不安定性。もう1つは中国経済が何らかの理由で減速した場合に国際社会に与える打撃のことだ。本書の著者は1980年代に日本に留学し、長銀総研や富士通総研などを経て、いまは東京財団の主席研究員を務める中国出身のエコノミスト。

 グローバル化の進展の時期、米国は中国に性急なレジームチェンジを求めなかった。経済の自由化に伴って中間層を中心に民主化機運が自然に高まるだろうと期待したからだ。この結果がオバマ政権の「エンゲージメント」政策。しかしそれは見誤りだった。アフガンのタリバン支配もそうだが、どうもアメリカは世界が自分と同じ見方に立つものだと思い込む癖があるのではないか。しかし中国はいまだに「文革」の行き過ぎの責任も取ってない国なのだ。本書は中国リスクの諸相を深くとらえている。

(慶應義塾大学出版会 2640円)

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