カマラ・ハリスの挑戦
「私たちの真実 アメリカン・ジャーニー」カマラ・ハリス著 藤田美菜子ほか訳
アメリカの歴史上初めての女性副大統領。しかも黒人でアジア系という多様な背景を持つカマラ・ハリス氏は、政権では移民問題を担当している。
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政治家はたいてい選挙に出馬するときのあいさつ代わりに自伝を出す。本書は2019年、上院議員だったハリス氏が大統領選への出馬を念頭に書いた手記だが、まだ出馬表明などはしていない時点での著作。それゆえ本書は政治家になる前のひとりの女性の生い立ちと自立の物語になっている。
父はジャマイカからカリフォルニア大に留学した数学者。母はインドのデリーで生まれてデリー大を卒業後にカリフォルニアに留学したエリート。しかし、長女のカマラと妹のマヤが生まれたあと、両親は離婚。だが、母はカナダの大学の研究員としてシングルマザーながらも2人の娘を育てた。
やがてカマラはエリート黒人大学として知られたワシントンのハワード大に進学。1年生で自治会選挙に出馬したという。次にはカリフォルニア大のロースクールで法学を修める。のちにカマラはカリフォルニアの地方検事として辣腕をふるい、地元政界で知られるようになるが、その萌芽はこうした生い立ちの反映だといえよう。
人種的マイノリティーに属してはいるものの、教養ある中流の生活と価値観で育った点ではオバマ元大統領に似た存在であることがわかる。
(光文社 2200円)
「カマラ・ハリスの流儀」ダン・モレイン著 土田宏訳
本書は昨年の大統領選挙の直前に書き上げられ、今年1月の就任式直前に刊行された。上記の手記には書かれてない大統領候補としてのハリス氏がここに描かれているわけだ。著者はカリフォルニア州のベテラン政治記者で、同州の地方検事や州司法長官としてタフさを見せてきたハリス氏をよく知る。
犯罪に対して強気で臨んだ剛腕は政治家としての彼女の信頼感を高めたが、大統領選に打って出ると左派からは疑いの目で見られ、資金不足も相まってついに民主党予備選からの脱落を余儀なくされてしまう。しかも予備選の討論会ではバイデンを激しく攻撃し、左派におもねった、やり過ぎとの批判も浴びた。そんな彼女の野心や豹変ぶりも臆せず明らかにした“ハリスの真実”だ。
(彩流社 2750円)
「カマラ・ハリス ちいさな女の子の願い」ニッキ・グリムズ著 ローラ・フリーマン絵 水島ぱぎい訳
「アメリカ初の女性副大統領」が与えた影響。それを最も大きく受け取ったのがアメリカのマイノリティーの子ども、特に少女たちだろう。
7歳で両親が離婚し、シングルマザーのもとで学童保育に通ったカマラ。そこには黒人差別と闘った先人たちの肖像が飾ってあったという。幼いカマラが砂糖と塩を間違えて作ったケーキも、学童の先生が笑って受け入れてくれた。長じてから司法試験に失敗したときも、失敗を糧に次の挑戦に立ち向かった。
なにげないエピソードを積み重ねた絵本は、少女たちのロールモデルとしてハリス氏が果たす役割と存在感を伝える。カマラは「ハスの花」の意味。大輪に咲くのは大統領に手が届いたときだろうか。
(玄光社 1760円)