負け犬ニッポン?
「分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議」河合香織著
後手後手コロナにヤケクソ五輪、景気はいっこうに上向かず、日本をこんな負け犬に誰がした!?
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東京・大阪ともに4回におよぶ緊急事態宣言。にもかかわらず感染拡大は止まらない。一体この体たらくは何なのか。本書はコロナの急拡大に対応して設けられた「専門家会議」をめぐるドキュメント。脇田隆字座長をはじめ、主だった専門家と厚労省の担当者らのやりとりが追跡される。
「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染対策から始まった同会議は2月下旬の第3回会議で政府発表とは異なる「独自見解」で注目を集めることになる。本書はこれを、危機感を抱いた専門家集団が「ルビコン川を渡った」という。以後、専門家と官邸や政府のズレはマスコミ報道によっても拡大し、5カ月後に同会議が「卒業」したあとも、国民のもどかしい思いが解消されることはなかった。
「分水嶺」とは川の流れが分かれる決定的なポイントを指すが、本書ではそれがいつだったかは必ずしも定かではない。同時進行に近いドキュメントだけにドラマチックな展開をあえて避けたものだろう。それがかえって覚悟もできぬまま沈んでゆくニッポンの無策を表しているかのようだ。
(岩波書店 1980円)
「郵政腐敗」藤田知也著
郵便事業の創業から今年で150年を迎えた日本郵政グループ。かつては旧郵政省が所管する公共事業だったことから今も高齢者の信頼度は高いが、実態は従業員40万人を超えながら、「腐敗の構造」にはまって抜け出せない巨大組織。本書はその実態を鋭く突いた朝日新聞経済記者の力作。
郵便局に採用された若者が研修期間中に教え込まれるのが不正ぎりぎりの売り込み手段。若手は朝8時半の朝礼が終わると営業に駆け出し、班ごとに課せられる契約ノルマの達成に走り回る。班員は携帯メールで「のこり42万!」「27万!」と成果を誇示し、上役は圧力をかけ続ける。局員自身が「オレオレ詐欺と変わらない」と自嘲する強引でずさんな売り込みを強いられるのだ。
副題にズバリ「日本型組織の失敗学」。小泉改革期以来の負け犬ニッポンのあがきがここに集約されている。
(光文社 990円)
「膨張GAFAとの闘い」若江雅子著
グーグルやアップルなどの支配を描く“GAFA本”は数あるが、本書の副題は「デジタル敗戦 霞が関は何をしたのか」。2012年、ヤフーが無料メールのユーザー向けに「興味関心連動広告」を導入しようとした。ところがネットを所管する総務省が待ったをかけた。電気通信事業法が禁じる「通信の秘密」の侵害にあたると警告したのだ。しかし、既に導入済みのグーグルにはおとがめなし。その理由はグーグルが「日本の電気通信事業者ではない」との立場を崩してないから、というのだ。
これを聞いた孫正義ヤフー会長は「まるで一国二制度じゃないか」と立腹したという。最近でこそターゲティング広告は禁止の動きが出ているが、12年当時はまさにグーグルなどGAFA勢力が日本で大躍進したころだ。何かといえば「ガイアツ」に腰くだけの日本政治を象徴するエピソードだろう。
著者は読売新聞のIT担当編集委員。警鐘を鳴らすべき立場にありながら「日本社会に十分な問題提起ができなかったことへの後悔」が本書の動機になったという。
(中央公論新社 990円)