おふくろの人生のテーマはとにかく「生きる」ということ
他にも、僕が発熱した場合、薬なんかには手を出しません。おふくろが自身の手に自らの唾を吐き出し、そのエキスを僕のオデコに塗り込むのです。丹念に念を込めて。「だんだんこの意識が遠のくのは、熱のせいなのだろうか? それともエキスのせいか……」と戸惑いますが、不思議と熱は下がりました。
そんなおふくろにどうしても聞けなかったことがありました。それは、僕が小学生の頃に友達から言われたある一言です。その一言とは、「おまえの母ちゃん、死んだ犬を抱えて歩いていたよ」。
……恐ろしくなりました。家で犬は飼ってない。何故? いけにえ? このパンドラの箱を開けてしまったら家庭が崩壊してしまう。だから今日のこの日まで僕の胸にしまってました。でももう大丈夫。今ならどんな結果になろうとも受け止める自信がある。そう決心しておふくろに聞くと、「あ~、あれ、犬じゃないさ~ 大きい猫!」「猫かーい! いや、そこじゃなくて! なんで!?」。
実は道端で死んでいた猫を埋めてあげようと抱えて移動していたそうです。さすが! 「生きる」に着目して生きているおふくろらしい愛の行動だと思いました。