応用の幅が広がったゲノム編集が食卓を変える日も近い?
クリスパーなどゲノム編集技術を使えば、狙った遺伝子を高い精度で簡単に破壊(生物学では「ノックアウト」と呼びます)することができます。
従来は、何人もの科学者がチームを組んで、半年から数年がかりで、ようやく1つの遺伝子をノックアウトできるかどうか。それがゲノム編集によって、手間も時間も大幅に減らすことができたため、ノックアウトできる遺伝子が飛躍的に増えたのです。
そうなるとがぜん、応用の幅が広がってきます。とりわけ農作物・家畜・養殖魚などの品種改良の研究が盛んです。
ほぼ実用化に達しているのが、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)と呼ばれる、ウイルス性の病気に強いブタの開発。妊娠している雌がPRRSにかかると流産・死産を起こしやすくなり、子豚がかかると発育不良に陥ります。毎年の損害額は、世界中で数千億円に達するともいわれています。
このウイルスは、感染する際に、ブタの気管や肺の細胞表面に突き出ている、ある種のタンパク質を足掛かりにして細胞内に侵入します。そこでアメリカの研究チームが、ゲノム編集によって、このタンパク質を作らないブタを開発したところ、ウイルスは細胞に付着できず、感染しないことが確かめられたのです。