「需要ひっ迫警報」で節電呼びかけ 電力不足の原因は本当に3.16地震の影響か?
3月22日に東京電力管内と東北電力管内で初めて発令された「電力需給ひっ迫警報」──。耳慣れない言葉に驚いた人は多いだろう。政府は「3月16日の福島県沖地震で火力発電所が停止」したことを理由に挙げていたが、1週間近く前の地震で電力不足になってしまうとは、改めて電力インフラのモロさを露呈してしまった。
◇ ◇ ◇
電力の「需給ひっ迫警報」は、東日本大震災後の2012年に運用がスタートした制度で、「計画停電」の前の位置づけになる。国民に節電を呼びかけ、停電を回避する狙いがある。
3月22日午前10時台に東電管内の電気使用量は4455万キロワットとなり、供給予測4393万キロワットの101%に達した。もっとも、予測と実際の供給力(発電可能量)は別モノのため停電までには至らなかったが、政府による節電の呼びかけもあって16時台には電気使用量が4359万キロワットにまで減っている。
■ガンガン発電すれば電気は足りるが…
電気のひっ迫具合は「でんき予報」で見ることもできる。当初は90%未満を「安定的」としていたが、現在は93%未満までならOK。93~95%未満が「やや厳しい」、95%以上で「厳しい」、そして97%レベルで「非常に厳しい」となり、こうなると今回のように需給ひっ迫警報が出される。
ならば、東電には火力発電所だけで最大4200万キロワットの発電能力があるのだし、ガンガン発電して常に「安定的」な供給水準を保てばいいと思うが、これが電力会社にとっては微妙なところ……。電気は貯めておけないので、「使用状況により刻々と変化する需要に合わせて発電しています」(東京電力パワーグリッド)となる。簡単に言うと、作りすぎたら燃料代がムダになるので、93%のギリギリが最も効率がいいわけだ。
最新式の火力発電所もダウン
ただし、電気の供給力は発電所のメンテナンスや地震による停止などによっても変化する。今回の福島県沖地震では、東北電力管内と東京電力管内で計14基の火力発電所が一時停止。現在も6基が動いていない。
「広野火力発電所6号機については、地震で変圧器が損傷したため、復旧までにあと1カ月ほどかかります」(発電所を操業するJERAの広報担当者)
気になるのは、故障した6号機が2013年12月に運転開始した最新の石炭火力発電所だということ(三菱重工機械システム社製)。しかも、この6号機は昨年2月13日の福島県沖地震でも稼働が停止し、千葉、神奈川など12県で計95万戸が停電した原因のひとつになった。
「6号機の耐震性が弱いということではなく、今回の停止はたまたまだと考えております」(前出のJERA広報担当者)
■停電によって死者数は増える
最新式でもこうだとなれば、他の発電所も心配だ。火力発電所のほとんどは燃料の運搬のため海岸沿いに建てられている。津波が来れば、その多くが稼働を停止してしまうのだ。
「先日、中央防災会議ワーキンググループが『日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震』についての報告書を発表しました。日本海溝地震はM9.1、千島海溝地震をM9.3と推定し、死者数は日本海溝モデルで6000~19.9万人、千島海溝モデルは2.2万~10万人としています。死者数については季節や時間などによって違い、冬場の方が低体温症などで被害が大きくなります。火力発電所に加え、変電所の多くも海沿いにあり、津波による停電リスクは高まります」(災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏)
経産省が原発再稼働に前のめり
中央防災会議の報告を見ると、津波は北海道のえりも町で最大30メートル弱、苫小牧市や函館市で10メートル。青森県は八戸市で25メートル超、岩手県は宮古市で30メートル弱となっている。
「地震によって電気の需要が供給を上回ると、大規模停電に至ります。いわゆるブラックアウト(全域停電)で、そうならないために一部地域の送電を停止するシステムが自動で発動されるようになっています。一般的に電気の復旧が長引くのは送電線が切れた場合ですが、火力発電所自体がダメージを受けて稼働を停止させてしまうと、今回のような需給ひっ迫警報といった話になります」(和田氏)
南海トラフ巨大地震(M8~9)の想定では、被災直後に40都府県で約2710万軒が停電するが、95%が復旧するまでに要する日数は、四国で約2週間、東海、近畿、山陽、九州は約1週間と意外に短い。
首都直下地震(M7.3)も、地震発生直後は変電所3カ所の被災によって東電管内で200万軒(東京は110万軒)が停電するものの、電力系統の切り替えで1日後には160万軒に減少。4日目でも停電しているのは約68万軒と全体のわずか2.6%しかない。電気の復旧だけに1日1万2000人の作業員が携わる想定だが、そんなにうまくいくのだろうか……。発電所や変電所そのものが損傷してしまえば、ダラダラと「需給ひっ迫警報」が続き、場合によっては計画停電という動きも出てくる。実際のところ、東日本大震災で停止した原町火力発電所(福島県)は復旧までに2年ほどかかった。
2021年4月の電気事業者の発電量は全体で約615億キロワット時。割合は最も高い火力が74.1%(LNG36.2%、石炭29.8%、石油1.2%ほか)、次が水力の13.6%、新エネルギー(風力や太陽光など)の7.9%、最後が原子力の7.7%となる(バイオマスと廃棄物発電は火力にもカウントされるため100%にならない)。
もっとも、経産省は2030年までに原子力の割合を20~22%まで高める意向。東日本大震災以降、石炭発電所だけでも31カ所が新設されてきたが、脱炭素の流れもあって新規着工ペースは鈍化している。丸紅と関西電力が2024年の運転を目指していた秋田港石炭火力発電所(出力130万キロワット=総事業費3000億円)も、昨年になって新設を断念した。
折からの原油高で原発に対する要望は高まるばかりだが、火力発電所でさえすぐに止まってしまう状況なのに、原発は大丈夫なのか。原発再稼働のために火力発電所の増設を減らした結果、今回の「需給ひっ迫警報」に至ったという気がしないでもない。