五木寛之 流されゆく日々
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連載12055回 新聞・雑誌拾い読み <3>
(昨日のつづき) いつからか新聞を下から読むような癖がついてしまった。 まず1面、最下段の本の広告を見る。その日によって6社とか8社のカラー広告が並んでいるのだが、これがなかなか秀逸なのだ。コ…
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連載12054回 新聞・雑誌拾い読み <2>
(昨日のつづき) 最近の週刊誌、新聞などには、カラスの鳴かぬ日はあっても、健康に関する記事がのらない日はない。 今週の週刊文春も、週刊新潮も、それぞれ健康についてのかなり力の入った記事を組んで…
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連載12053回 新聞・雑誌拾い読み <1>
今朝の新聞を眺めていて、びっくりした。 短いニュースだが、目下、ウクライナでプーシキンの像が撤去されつつあるという。 たしかにプーシキンはロシアの国民的詩人である。さらに、ドストエフスキーや…
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連載12052回 なくて七癖とは <5>
(昨日のつづき) 北のほうは大雪らしいが、東京、横浜は降らない。 むかしは関東も結構ふったようだ。『忠臣蔵』の討ち入りの日も、雪が背景になっている。 雪は降らないが、寒さはかなり厳しい。そ…
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連載12051回 なくて七癖とは <4>
(昨日のつづき) <衣食住>などという。 この言葉は私たち人間の存在様式の、根元をあらわす表現のように使われる。 しかし、私はなんとなく疑問があるのだ。 なぜ<衣>がトップにくるのだろう…
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連載12050回 なくて七癖とは <3>
(昨日のつづき) ものを食べるときに、指をペロリとやる癖のほかにも、私の長年のクセは沢山ある。 たとえば、夜、眠るときがそうだ。 私は昔からずっと<横臥>である。つまり上向きでも、うつ伏せ…
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連載12049回 なくて七癖とは <2>
(昨日のつづき) 新聞や本のページをめくるたびに、右手の人差指をペロリとなめる。 新聞によっては各ページがくっついていて、なかなかうまくめくれない時もあるのだ。 それがいつのまにやら習慣化…
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連載12048回 なくて七癖とは <1>
<なくて七癖> とかいう。古典にもでてくる古い言葉だそうだ。 それにしても日本人は<七>という数字が好きらしい。<ラッキー・セブン>などというから、外国でも<七>が好まれるのだろうか。 <七…
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連載12047回 一秒を急ぐこころ <4>
(昨日のつづき) きょうはいい天気だ。 「一点の曇りもない好天」などというが、本当に雲の切れっぱし一つない青空である。 大型のジェット機が、かなりの高度をゆっくりと横切っていく。 いや、…
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連載12046回 一秒を急ぐこころ <3>
(昨日のつづき) 1秒。 自分にとって1秒という時間がどれほどのものであったかを考えた。 九十数年の過去のなかで、はたして<1秒>が関係した重要な事件があったのだろうか。 ある。 …
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連載12045回 一秒を急ぐこころ <2>
(前回のつづき) 少し歩いて近くのカフェに入る。 客の少い時間なので、そこでコーヒーでも飲みながら、きょう締切りの雑誌の対談のゲラ直しをやろうというつもりなのだ。 コーヒーにするか、カフェ…
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連載12044回 一秒を急ぐこころ <1>
今朝、エレベーターに乗ったら、ひどく混んでいる。日曜のせいだろうか。 遠慮して扉のそばに立ち、(閉)のボタンを押そうとした。私は九州の男で、なににつけてもやたらセッカチなのである。 その瞬間…
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連載12043回 カウンターの思想 <5>
(昨日のつづき) マンガは典型的なカウンター・アートだ。 たとえ時勢に迎合するようなマンガであっても、マンガ的である限りはカウンター効果をもつ。 落語や漫才もそうだろう。長屋のクマさん、ハ…
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連載12042回 カウンターの思想 <4>
(昨日のつづき) 圧倒的につよい力をもったスローガン、キャッチフレーズ、コピーなどがある。 それはビジネスばかりではない。ナチス・ドイツの例を引くまでもなく、政治的マニフェストもそうだ。 <…
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連載12041回 カウンターの思想 <3>
(昨日のつづき) 「イツキさん、いま日刊ゲンダイに<カウンターのなんとか>いう文章書いてますやろ。酒呑むのに横文字の理屈、いりますか。カウンターの店は、酒呑んで、陽気にお喋りして、それで十分や。とき…
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連載12040回 カウンターの思想 <2>
(昨日のつづき) カウンター・パンチ、またカウンター・ブロウともいうらしい。 ふつうのパンチとはちがって、相手の体重が前足にかかっているときに加える打撃だけに、本来のパンチ以上のダメージをあた…
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連載12039回 カウンターの思想 <1>
『君たちはどう生きるか』という本が大話題だった時期がある。そのころ、私の頭に浮かんだ新しい本のタイトルは、『オレたちはどうボケるか』というものだった。 こんど朝日新書から新刊をだすに当たって、この…
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連載12038回 二冊の人物スケッチ <5>
(昨日のつづき) 仕事としてのインターヴューで会うときの相手は、ふつうどことなく警戒心がつきまとうものだ。 それは当然だろう。よく知っている相手ならともかく、初対面で短い時間に話し合おうという…
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連載12037回 二冊の人物スケッチ <4>
(昨日のつづき) 新潮選書の新刊として先日、発売された『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』には、46人の人々が登場する。 月刊雑誌の連載だったので、いま読み返してみると、それぞれかなり文章のタッチがち…
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連載12036回 二冊の人物スケッチ <3>
(昨日のつづき) 昨日のこの欄で、<モノ>の時代から<ヒト>の時代へと世界が変った、と書いたが、その<ヒト>とは必ずしも実在の人物ということではない。 その人物に象徴されるイメージのことだ。ト…