「愛される資格」樋口毅宏著
大手文具メーカー「あねちけ」に勤める富岡兼吾は33歳、バツイチ。仕事に情熱が持てず、かといって特別な才能もなく、人生に倦んでいる。おまけに、体育会系のこわもて上司、下永とそりが合わず、鬱憤がたまりにたまっていた。
ある夜、泥酔した下永を自宅まで送り届けるハメになった兼吾は下永の妻・秀子と出会い、復讐を思いつく。にっくき上司の妻を寝取ってやれ!
「週刊ポスト」の連載をまとめた長編小説。同時代の出来事や実在の著名人の言説を随所にちりばめながら、物語は展開する。
ちょっとした手練手管を弄して、兼吾の不遜な企みは成功した。巨根とテクニックには自信のある兼吾の手ほどきで、貞淑そのものに見えた13歳年上の人妻はみるみる変貌していく。不倫現場の描写が濃厚。
復讐のつもりが、ぬきさしならなくなり、兼吾よ、さあどうする、という正念場を迎えて物語は二転三転。
30歳を過ぎても大人になれなかった兼吾は、秀子との関係が深まる過程で過去と決別し、ようやく地に足をつけて歩み出すのだが、彼の未来は予断を許さない。待ち受けているのは「死の棘」(島尾敏雄の小説)の世界かも……という怖さが残る。