「私の『貧乏物語』」岩波書店編集部編
かつては米屋で米や麦を買うのに米穀通帳というものが必要だったが、出久根達郎の家には米穀通帳がなかった。極貧の生活で米を買ったことがなかったからだ。乾麺を一束買い、3倍にふやかして食べる。それが主食だった。それ以外は道端のツクシ、池のザリガニ、稲田のイナゴを捕って食べた。自分たちの食事と比べるようなものを食べたことがなかったので、粗食だとは思わなかった。イナゴの佃煮が珍味として高価で売られているのを見つけたとき、自分たちはぜいたくをしていたのかもしれないと思った。
ほかに、近所の家のケチャップを混ぜただけのチキンライスが羨ましかった蛭子能収など、ほのぼのしてしまう36編の貧乏物語。(岩波書店 1600円+税)