ニュースの裏側が分かる地政学本特集
「現代の地政学」佐藤優著
複雑に絡み合い、常に変化を続ける国際情勢を論じる際に、近年、よく耳目にする「地政学」。地理的環境が国家に与える影響や、国家間の関係を地理的な条件から考察する学問のことである。そんな地政学的な視点から現在の世界を論じ、ニュースの裏側が分かるようになる4冊を紹介する。
ソ連崩壊を経たロシアに勤務していた時代に地政学の力に気づいたという元外交官で人気作家の著者による地政学講義。
今後は、地政学的な見方、思考がますます重要になってくると著者はいう。例えば、英国のEU(欧州連合)離脱。英国の国家意思は、19世紀からヨーロッパ大陸と連携するか、「名誉ある孤立」を選ぶかで揺れ続けてきた。第1次大戦後は、連携路線をとっていたが、今回は孤立主義に向かい、EU離脱を選択した。これはアメリカのトランプ現象とも相似する。英国と米国が孤立主義を選択できるのは、地政学的視点から考えると、両国とも海洋国家だからだという。
転じて、日本が鎖国中にオランダとの関係だけ残していたのはなぜか。海洋国家である日本にとって最大の敵は同じ海洋国家であり、当時の最強の海洋国家であるオランダとの良好な関係を維持しなければならないという地政学を、当時の日本人が分かっていたからだそうだ。
近年、日本と中国との関係が急速に緊張したのも、中国が海洋戦略を展開し始めたからであり、同じ理由で太平洋における海洋戦略を放棄したロシアとは以前のような緊張はなくなっていると指摘する。
こうした歴史や現代のニュースの背景を語りながら、国際情勢を読み解くのに不可欠な地政学的見方や思考について解説。聴衆を前にした講座をもとに編集されているため分かりやすく、そしていつもながら、著者の膨大な知識には驚かされる。(晶文社 1500円+税)