世界文学という大海を泳ぐための羅針盤
「世界文学大図鑑」ジェイムズ・キャントンほか著、沼野充義日本語版監修、越前敏弥訳
これまでの何千年もの間で、人類は星の数ほどの物語を生み出してきた。こうなると、世界文学に親しんでみようと思っても、あまりに膨大な作品を前に、どこから手を付けていいのか分からない。
本書は、そんな悩みに応えるべく、文学史上において読んでおきたい、またエポックメーキングとなった作品を集め、人類の壮大な文学の歴史を一冊に凝縮した図鑑だ。
「ギルガメシュ叙事詩」(紀元前2100年以降)は、文字で書かれた最古の文学のひとつ。
粘土板に刻まれたこの物語には、メソポタミアの都市ウルクの暴君が、教訓を得て英雄になるまでが描かれている。
続く中国の「易経」(紀元前12~11世紀)やインドの「マハーバーラタ」(紀元前9~4世紀)など、その名を耳にしたことはあるが手にしたことのない物語のあらすじや成り立ち、そして文学史的な位置付けなどが解説され、今更ながらに、現代まで読み継がれてきた理由に納得。
15世紀、グーテンベルクが印刷機を発明。やがて散文体形式で書かれた物語が現れた。小説の誕生だ。ヨーロッパ最初の近代小説といわれるミゲル・デ・セルバンテスの「ドン・キホーテ」(1605~15年)など、この時代くらいになると読んだことがある作品もちらほらと出てくる。
以後、9・11をテーマにしたジョナサン・サフラン・フォアの「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(2005年)などの現代作品まで。文学の海で溺れないように絞り込んだ100余冊、そしてもっと読みたい読者のため、さらに200余冊を取り上げる。
世界文学という大海を泳ぐ羅針盤となってくれる図鑑。掲載本を読む時間がない人は、本書を読むだけで、教養としての文学的知識が身につく。(三省堂 4200円+税)