日仏の映画の歴史を一望する大著
「日仏映画往来」遠藤突無也著
フランスと日本、お互いに影響を及ぼし合ってきた両国の映画文化の歴史をたどるシネマ本。
歌手・音楽プロデューサーの著者は、フランスでシャンソンと向き合う中、自らの音楽のルーツが幼いころから親しんできたフランス映画にあることに気付いたという。以来、日仏の映画のポスターを集め、映画について調べてきた著者がそのすべてを注ぎ込んだ800ページを超える大著。
例えば、ルイ14世に仕えたシャルル・ペロー。その名は知らなくとも、彼が生涯をかけて集めた民間伝承をもとにした童話集にある「シンデレラ」や「眠れる森の美女」を知らない人はいないはず。
著者は、雪村いづみ主演の「娘十六ジャズ祭り」(1954年)など、シンデレラストーリーものをはじめ、「長靴をはいた猫」や「青ひげ」「赤ずきんちゃん」など、ペローが書いた物語の影響を受けた日本映画を紹介。一方で、三島由紀夫の小説を映画化したイザベル・ユペール主演の「肉体の学校」(98年、日本劇場未公開)など、それぞれの国の文学者と映画の関係を「文学往来」として俯瞰する。
さらに、ジャン・ギャバンとアラン・ドロンが共演した「地下室のメロディー」(63年公開)を片岡千恵蔵主演で時代劇に仕立てた「御金蔵破り」(64年公開)などの“作品往来”から、エクトル・ベルリオーズの代表作「幻想交響曲」が作品の中で重要な役割を果たす昨年公開の「オケ老人!」などの“音楽往来”まで、日仏の映画を縦横に語りつくす。
ジャンルを問わず、懐かしい日活のロマンポルノ作品も多数登場し、何よりもその映画の知識量に驚かされる。
各作品解説にコレクションしたポスターも添えられ、日仏映画の貴重な資料として、映画好きならぜひ手元に置きたい一冊となることだろう。(松本工房 5200円+税)