「My Room」ジョン・サックレー著
世界各国の若者たちの暮らすベッドルームの天井にカメラを据えて、その住人と部屋を見下ろすように撮影したちょっと変わったポートレート写真集。フランス人の著者が、6年をかけて世界55カ国をめぐり、1200人のベッドルームを撮影した中から84人分を収録する。
女優としての成功を夢見てパリに引っ越してきたばかりの役者・Astridの寝室は、シンプルでいて洗練されている。彼女は「私にとって部屋は、人生の大部分を象徴している場所。なぜなら、そこは私が寝る場所であって、くつろぐ場所でもあり働く場所でもあり、そして何よりも、夢を見る場所であるからです」と語る。
彼女の言う通り、多くの若者にとって親から自立して構えた自分の「城」は、自己実現のキャンバスである。しかし、そんなことを言ってはいられない過酷な現実と闘う若者たちが世界には大勢いる。
インド・ムンバイのスラム街ダラビの漁師・Nikesh(18歳)が写る部屋は、じつは家族全員の寝室。わずか5、6畳ほどのスペースに置いてあるベッドは一番若い人に譲られ、家族と親戚10人以上が床の上に敷いた布の上で体を寄せ合って寝ているという。
他にも、レバノンの難民キャンプのテントに暮らすシリア人のYasser(20歳)や、一家全員がHIV感染者だという南アフリカの鋼板でできた家「シャックハウス」に暮らす高校生Kamagelo(18歳)、一夜のうちに4万5000人が犠牲になった大虐殺事件を生き延びたルワンダのJean―Claude(29歳)など。平和ボケした我々には想像すらできない日々を送っている彼らだが、レンズをまっすぐに見つめるその目は、未来を信じて輝いている。
撮影とともに彼らにインタビューを重ねてきた著者は、この壮大な旅で学んだのは「世界が不公平な場所であること」を知ったことだと語る。
一方で、自慢の銃のコレクションとともに写真に納まるアメリカ・ダラスの大学生Ben(22歳)や、アラブ首長国連邦ドバイに代々暮らす「エミラティ」と呼ばれる富豪の一員・Khalid(23歳)のような若者たちもいる。
他にも、エチオピアのハワッサという小さな町に暮らす高校生のBereket(17歳)のようにインターネットで英語から物理学まで学ぶ天才少年や、25歳のArianaが5年前から暮らすメキシコの・チワワ市の監獄、漁師のMarinaldo(29歳)が家族と暮らすブラジルのアマゾンの入り江の水上に浮かぶ家など。神の視点から見下ろすように撮られた部屋には、住人たちの人生が丸ごと詰まっている。そしてそれらが集まったこの一冊の写真集には、世界の「今」が余すところなく詰まっている。
(ライツ社 2800円+税)