「熟睡の習慣」西野精治著
睡眠に関するさまざまな国際調査を見てみると、日本人の睡眠時間はワースト1位か2位。世界最低レベルであるうえ、年々減少し続けているという最悪の状況だ。健康を考えるなら、今すぐ睡眠を見直す必要がある。
本書では、睡眠研究の最高峰であるスタンフォード大学の教授を務める著者が、睡眠研究の最前線から熟睡の環境づくりまで、眠りにまつわる情報を網羅して紹介している。
近年、寝ている間に脳の老廃物を洗い流す「グリンパティック・システム」の働きが明らかになってきた。脳の老廃物の代表格が、アルツハイマー病のリスクを高めるアミロイドβというタンパク質のゴミだ。体内の老廃物はリンパ系に集められて血管を通り、尿として排出されるが、脳にはリンパ系が通っていない。代わりに、グリア細胞と呼ばれる細胞の表面に水を取り込む仕組みがあり、これが脳脊髄液を循環させて老廃物を洗い流している。
このシステムは、覚醒時より睡眠時に4~10倍も活性化することが分かっている。つまり、睡眠不足が続くと脳に老廃物がたまりやすく、認知症のリスクを高める可能性があるということ。睡眠不足のツケは、目に見えない形で蓄積されるから恐ろしい。
熟睡してしっかりと睡眠の効果を得るには、睡眠環境を整えることが大切だ。寝具は通気性を重視して選ぶことで自然な体温変化が起こりやすく、入眠初期に深い眠りをもたらして睡眠の質が上がる。また、リビングでは夜間の照明を明るくし過ぎないこと。オレンジ系の色味に調光するか間接照明に切り替えれば、体内時計が調整されて睡眠が促されやすくなるという。
充実した睡眠習慣こそが、健康長寿の秘訣だ。
(PHP研究所 900円+税)