「ワクチン いかに決断するか」R・E・ニュースタットほか著 西村秀一訳・解説
日本でもようやく医療従事者以外への新型コロナウイルスワクチン接種がスタートしている。しかし、副反応がどう出るのか、その効果はいかほどなのかなど、見極めていかなければならない事柄は数多く残されている。
そんな今のタイミングで刊行された本書は、アメリカで1976年に起こった「豚インフルエンザ事件」とも呼ばれる一大ワクチン騒動のリポート。
「スペイン風邪」によるパンデミックの再来を恐れて実施された大規模ワクチン接種事業が、わずか2カ月ほどで中止に追い込まれた。当時の報告書をベースに、大規模公共政策のあり方を探った本書は83年に刊行されたものだが、今回はそこに国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長の訳者が詳細な解説を加え、コロナ禍におけるワクチン事業に関する教訓を示している。
76年、豚インフルエンザ由来のウイルスによって陸軍基地の兵士が死亡。これを受けて当時のフォード大統領は、全国民へのワクチン接種を決断した。ところが、10週間で4万人以上が摂取したものの、注射直後から神経疾患であるギラン・バレー症候群の発症や死亡者が多発した。
アメリカ厚生行政の汚点となった本事件だが、翌年の77年には、CDC(アメリカ疾病対策センター)がパンデミックに備える新たなプランを策定。ワクチン接種諮問委員会の議論や評決が国民に対してオープンにされるようになった。さらに、副反応情報の素早い情報収集も進み、コロナ禍ではワクチン接種者の体調をスマホで逐次拾い上げるシステムも構築されている。
日本の行政、そしてワクチンを接種する国民一人一人も、過去の教訓から学ぶべきだ。
(藤原書店 3960円)