「パンデミック以後」エマニュエル・トッド著

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 ソ連崩壊やイギリスのEU離脱などを予言してきた、フランスの歴史家であり文化人類学者である著者。新型コロナウイルス感染症の拡大は社会の格差と対立を決定的なものとし、国際社会が抱いていたさまざまな「幻想」を打ち砕いたが、コロナ禍が社会を壊したのではなく、社会がすでに壊れていたことを暴いたに過ぎないと指摘する。

 フランスの場合、欧州に組み込まれ自立性をなくしていたにもかかわらず、依然として工業大国だという幻想があった。しかしコロナ禍で、マスクさえ製造できなくなっていることに気づかされた。

 一方、日本は資源を外に依存していることから強力な製造業を守り続けており、モノを生産するラインは損なわれていなかったことが分かった。ただし、日本はもっと深刻な幻想に気づくべきだと本書は警告する。それは、少子高齢化という人口動態上の危機だ。

 日本の政治家はこの問題の解決策が経済の中にあるように思っているが、実際には不十分な女性の解放に深い根があり、子供をつくる条件を損なっている。多くの日本人はこの問題に正面から向き合いたくないように見えるが、人口が減り、その人口が老いるという問題は安全保障にも重くのしかかる。人口動態危機に対応するには出生率の上昇と移民受け入れを同時に進める必要があるが、移民を統合するにも自国の子供を増やすことが先決だ。国際秩序が大きく変わりつつある今、日本が取り組むべき最大の問題を人口動態危機と捉えるべきだと著者。

 コロナ禍が暴いた中国の脅威や、欧州で色合いを強める権威主義的体制など、コロナ後の世界が対峙せざるを得ない問題についても、著者ならではの鋭い視点でひもといていく。

(朝日新聞出版 825円)

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