「新型コロナ データで迫るその姿」浦島充佳著
東京慈恵会医科大学教授であり、小児科、疫学、統計学などを専門分野に持つ医師が、“締め切りに間に合うぎりぎりの時点(2021年2月5日)まで医学論文の科学的エビデンスを収集した”という本書。国内外のデータを分析しながら、新型コロナの全体像を浮き彫りにしている。
誰もが知っている世界的エビデンスとしては、高齢で死亡リスクが高いことが挙げられ、日本でも新型コロナによる死亡の85%は70歳以上である。ただし、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合を示す高齢化率と照らし合わせてみると、世界一の高齢化率を誇る日本の死亡率が、欧米諸国と比較すると極めて低いことも分かってくる。この点に影響を与えているのが、肥満の因子である。
実際、肥満があると新型コロナの発症リスクは5割増しとなり、重症化が2倍以上、そして死亡リスクも5割増しになるというデータがある。日本の高齢患者の死亡率が欧米諸国よりも低く抑えられているのは、肥満が少ないことが影響していると考えることができる。
また、肥満が新型コロナのリスク因子になることは、高齢者以外にも言えること。在宅ワークが増えて肥満が進めば、感染リスクは減らせても罹患(りかん)した際の死亡リスクは上がってしまう。運動不足を解消して体重コントロールをしなければ、本末転倒の結果になりかねないと著者。
日本の5都道府県の流行曲線から読み解く換気の影響や、緊急事態宣言やGoToトラベルと人々の行動変容、「ネアンデルタール遺伝子」の有無による死亡リスクの違い、そしてワクチンの予防率や無症候性感染の予防の可能性など、最新データを読み解く本書。敵の正体を知れば、闘い方も見えてきそうだ。
(化学同人 2310円)