「東京を捨てる」澤田晃宏著

公開日: 更新日:

 コロナ禍で高まる地方移住への関心。本書では東京から兵庫・淡路市に移住したジャーナリストの著者がコロナ移住者や移住支援団体、移住に関する地方自治体の取り組みなどを徹底取材している。

 東京・有楽町駅前の東京交通会館には、2002年に設立された日本最大の移住相談センターである「ふるさと回帰支援センター」がある。現在42道府県の相談窓口が設置され、各自治体から出向した専属相談員が移住希望者の相談にあたっている。資料も豊富にそろっており、移住を検討する人にとっては極めて利用価値の高い施設だ。

 移住といっても、著者のように大都市から遠く離れた地方に移る人ばかりではない。同センターの相談件数を見ればそれは明らかで、2020年6月から9月の相談件数で前年2倍と大きく上回ったのが、茨城県だ。他にも、大阪府に近い和歌山県、愛知県に近い岐阜県などが増加しているという。近い将来、コロナが一気に収束する可能性も捨てきれず、大都市とのつながりを残しつつ、通勤圏内ギリギリに移住先を探す傾向が強くなっていることが分かる。

 都会人が見落としがちな地方暮らしの現実についてもしっかりと言及する本書。地方に移住すると生活費が下がると思われがちだが、都市ガスより高いプロパンガスや、地方ほど割高になる水道代、そして公共交通機関の少ない地方で負担が大きくなる車両費などを合算すれば、居住費が下がっても全体の生活費は変わらない可能性も出てくる。

 他にも、移住手段のひとつとなる「地域おこし協力隊」への参加や、新規就農などについても紹介する本書。コロナ移住のイロハが分かる、実用書的役割を果たしてくれるルポだ。

(中央公論新社 946円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    六代目山口組・高山若頭の相談役人事の裏側を読む

  2. 2

    大物の“後ろ盾”を失った指原莉乃がYouTubeで語った「芸能界辞めたい」「サシハラ後悔」の波紋

  3. 3

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  4. 4

    フジ経営陣から脱落か…“日枝体制の残滓”と名指しされた金光修氏と清水賢治氏に出回る「怪文書」

  5. 5

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  1. 6

    上沼恵美子&和田アキ子ら「芸能界のご意見番」不要論…フジテレビ問題で“昭和の悪しき伝統”一掃ムード

  2. 7

    “路チュー報道”STARTO福田淳社長がフジ新取締役候補というブラックジョーク…堂本光一も痛烈批判

  3. 8

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  4. 9

    ドジャース佐々木朗希 160キロ封印で苦肉の「ごまかし投球」…球速と制球は両立できず

  5. 10

    ダウンタウン浜田雅功“復帰胎動”でまたも「別人疑惑」噴出か…中居正広氏「病後復帰」では陰謀論がワンサカ